なんて、ふてぶてしい女だと思った。
ギロッと俺を睨むその鋭い目つき。大きな2つのブルーアイズ。
小さな体つきのくせして、圧倒的な存在感がある。
思わず、後退りしてしまうほどだ。
「くっ……この映画に対して失礼だと思わないのかっ!?」
俺も負けじと反論する。
「こっちはお金を払ったのだから、観ようが寝ようが客の勝手じゃない。ニュースで海外の賞を総なめにしたから観に来たけど、本当に退屈な映画だったわ……」
とため息をつく。
その言葉に俺はカチンときた。
確かに、彼女の言うように最初は俺もタケちゃんの映画を少し小バカにしていたが。
今日初めて観たその瞬間から、一目惚れした。
それぐらいインパクトの強い作品だったし、人生を変えてもらった。
なんだったら、毎日観に来たいぐらいだ。
だから、心底腹が立つ。
この女に。
「おい、女! お前、タケちゃんの悪口はそこまでにしろ!」
「はぁ? 別にこの製作者に対して、何か悪いことを言ったつもりはないわ。ただ退屈だって、率直な感想を言っただけなのだけど?」
「それが悪口だって言うんだよ、チビ女!」
よく見れば、かなり幼いぞ。こいつ。
「さっきから女って、失礼ね。私にはちゃんとした名前があるのよ?」
「フンッ! じゃあ名乗れよ。俺は天才の新宮 琢人だ」
そう自己紹介をすると、彼女は鼻で笑う。
「あなた。自分で天才ってバカじゃない? まあ、いいわ。私はマリア。冷泉 マリアよ」
腕組みしてドッシリとシートに座り込む。
なんて生意気な女だ。
「冷泉か。認識した」
※
その後、映画館のスタッフがスクリーンに掃除をしに来た。
入れ替え制だから、「早く出てくれ」と怒られてしまう。
渋々、俺と冷泉は映画館を後にした。
二人並んでエスカレーターに乗り込む。
降りながら、俺たちはずっと口論していた。
「退屈な映画というのを撤回しろ!」
「嫌よ。決めるのは私じゃない。価値観を押し付けないでくれる?」
「押し付けじゃない! 人の好きなものをバカにされたから、怒っているんだ!」
「なら謝るわよ。でもね……私って曲がったことが大嫌いなの。物事を白黒ハッキリさせないと気が済まないのよ」
彼女の口からそれを聞いた俺は、言葉を失った。
「……」
「な、なによ? 悪い?」
下から、上目遣いで俺の顔を覗き込む。
頬を少し赤らめて。
こいつ……同じだ。
俺と同じ性格だと思った。
だからか……こんなに本音で言い争いをしているのは。
案外、悪い奴じゃないのかもしれない。
エスカレーターを降りたと途端、冷泉の小さな腹からグゥーと大きな音が鳴る。
それを聞いた俺は、鼻で笑う。
「なんだ? 大食い女なのか?」
「し、失礼ね! 私はあんまり福岡に詳しくないのよ! カナルシティも初めてだから、迷ってご飯食べられなかったのよ」
なんて恥ずかしがる姿はちょっと可愛らしいなと初めて思えた。
「そうか。なら、俺の行きつけのハンバーガー屋がある。そこで映画の話でもするか?」
「美味しいの? そ、そのハンバーガーショップって……」
急にもじもじする冷泉。
「ああ。カナルシティなら、あそこが一番だ」
「じゃ、じゃあ。連れていって……」