10年前。
俺が小学生の頃。
3年生ぐらいだったか。
俺はクラスで浮いていた。
曲がったことが大嫌いな俺は、間違ったことを正論のように語る奴を見ると、すぐケンカを売っていた。
「お前は間違っている!」と。
もちろん、ケンカと言っても、理詰めの口ゲンカばかり。
だから嫌われていた。
「新宮は弱いくせに、うるさい」て。
次第に仲の良かった友達も俺から離れて行き、いつも一人ぼっちだった。
だから、学校なんてつまらないところ。早いうちに見切りをつけてやると、不登校を自ら選んだ。
家には新しい妹とか言う、クソキモい生命体を親父が連れて来たっけな。
幼女のくせして、乳がデカくて、キモいったらありゃしない。
やたらと俺になついてくるから、ウザく感じた俺は、よく映画館に足を運んでいた。
色んな映画を見た。
上映中の作品は全て見尽くすほど。
洋画が好きだったのだが、観る映画がもう無くなってしまった頃。
俺はシネコンてやつは苦手だったが、唯一観賞してない作品を上映中のカナルシティ博多に向かった。
そこで、初めて出会ったのが、タケちゃんの映画だった。
今でも覚えている。
確か、作品名は『打ち上げ花火』
当時名誉ある海外の最優秀賞を取り、話題になっていた。
俺はタケちゃんと言えば、芸人というイメージが強く、別に好きでも嫌いでもなかった。
お茶の間の人気者。
どうせ、映画監督なんて趣味レベルでやっているのだろうと、少しバカにしながらチケットを購入し、劇場に向かう。
だが、上映開始のベルが鳴るや否や、その先入観は全て消え失せる。
圧倒的な映像美。独特なセリフ回し。目を覆いたくなるような暴力描写。
「すごい!」
素直にそう思えた。
たった1時間30分だったが、俺には30年分ぐらいの半生を見せられているように感じた。
映画が終わっても、まだ胸がドキドキしていた。
「カーッ! 超すげぇ! 決めたぞ、俺はタケちゃんファンになるぞ!」
なんて拳を作って、席から立ち上がる。
よし、パンフレットを買って帰ろうとしたその時だった。
隣りの席に座っている一人の少女が邪魔で、スクリーンから出られない。
「おい、女。映画終わったぞ」
「……」
ひじ掛けに肘をつき、手のひらに小さな顎をのせている。
長い金色の髪で顔が隠れていて、どんな奴かはわからないが、どブスのヤンキーだろう。
「聞こえてないのか? 早くどいてくれ!」
人がさっさとパンフレットを買いたいというのに。
「……すぅすぅ」
「こ、こいつ」
寝てやがる。
俺は無性に腹が立った。
早くパンフレットを買いたいという気持ちもあるが、なによりも先ほどまで上映していた崇高な作品『打ち上げ花火』をちゃんと観賞せず、眠っていることにだ。
普段なら、無視するところだが、今日から俺はタケちゃんの推し!
アンチ許すまじ。
「女。起きろ!」
小さな彼女の肩を激しく揺さぶる。
「な、なによ……うるさいわね」
「女! お前、この映画を見ていなかっただろ! 眠っていたな!」
ビシッと指差してやる。
「ああ……やっと終わったのね。この退屈な映画」
「なんだと!? 貴様、もう一辺言ってみろ!」
彼女は深いため息をつくと、長い金色の髪をかき上げて、視線を俺に合わせる。
その瞳を見て、一瞬で俺は言葉を失った。
宝石のようにキラキラと輝く青い瞳。
こいつ。外人か?
「退屈な映画だから、眠ってしまったことが何が悪いの?」
それがマリアと初めて出会った日の出来事だ。