金髪、貧乳、色白で華奢な体型のハーフ美少女。
 あの時……確かに俺は、この世に一人しか存在しない可愛い女の子だと思った。
 そうだ。半年前、一ツ橋高校で。
 だが、目の前にもう一人いるじゃないか。
 完璧な美少女が。
 あいつは不必要なモノがついている……男の子。

 2つのブルーアイズをキラキラと輝かせる彼女の名は、マリア。

「タクト、ただいま。10年ぶりね!」
 そう言って、俺に抱きつく。
「お、おかえり……」
 ていうか、誰ぇ!?
 名前はなんとなく思い出せたけど、それ以外の記憶がなにも出てこないよ~
 グリグリとノーブラの生乳を俺の身体に擦り付ける。
「わ、私……ちゃんとここに、福岡に帰って来られたのよ。あなたと約束したから、手術も成功したの。タクトが結婚の約束をしてくれたからよ」
 と涙を流すマリア。
「結婚? 手術?」
 俺は新手の詐欺にでもあっているのだろうか。
 彼女の言っていることが、さっぱりわからん。
「そうよ。10年前、この博多川で私と約束をしてくれたじゃない!」
 やっと俺から身を離すマリア。
 そして、目の前に流れる河川を指差す。

  ※

 マリアの青い瞳は涙で溢れていたが、宝石のように輝いて美しい。
「青い…目」
 気がつくと呟いていた。
 俺は、マリアの美しい瞳に、どんどんと吸い込まれていく。

 どこからか、幼い声が聞こえてきた……。


『私、怖いの。生きて戻って来られるかわからなくて……』
『心臓の手術だったか?』
『ええ。成功できる確率は半々と言ったところかしら』
『そうか。ならば、賭けようじゃないか。お前は手術。俺は小説家としてデビューすることを』


 思い出した。
 あの時のことだったのか……。
 ガキの頃だったし、もう正直会うこともないと思ってなかったから、すっかり忘れていた。
 彼女を見た俺は激しく動揺していた。
 心臓がバクバクとうるさい。
 
 過去に重大な約束をしていたこと、こんな可愛い女の子と仲が良かったこと。
 だが、それよりも一番驚いているのは、あいつに似ていることだ。
 目の前にいるこのマリアが……。
 なんで、アンナ……いや、ミハイルに。

 胸が痛む。まるで大きな穴が空いたようだ。
 ポッカリと何かが抜けてしまった、そんな喪失感が残る。

 これはショックを受けているのか?
 あいつが“初めて”じゃなかったことを。
 幼い頃に出会ったマリアが可愛くて、無意識のうちに重ねてしまっていた自分に。
 何故、今なんだ。
 ミハイルやアンナになんて言ったらいいのだろう。
 罪悪感で、押しつぶされそうだ。