「10年前……一体、なにを言っているんだ? アンナ」
あれぇ? 俺ってこいつとそんな長い間柄だったけ。
首を傾げていると、彼女は肩をすくめて、ため息をつく。
「やっぱり忘れているんじゃない。あれだけ、格好つけておいて……もう、私あなたの口癖は信用しないわ。『認識した』っていうセリフ」
俺は酷く動揺していた。
目の前にいるこの金髪の美少女がアンナじゃなければ、誰だというんだ?
色んなカワイイ女の子を見てきた俺だが、彼女……いや、ミハイルほどのルックスの持ち主はいないはず。
沈黙が続く。
どう会話を切り出したらいいのか、分からない。
脳内の記憶を検索しまくる……だが、10年前なんて昔の映像は蘇らない。
しばらく考えこんでいると、痺れを切らした彼女が俺の手を握りしめる。
「タクト。ここを触って。それで思い出すはずよ」
そう言って、俺の右手を自身の胸元に当てる。
「なっ!?」
その行動に驚いた俺は手を離そうとするが、彼女が許してくれない。
華奢な体つきの割にかなり強い力だ。
「ほら……聞こえるでしょ。私の鼓動が」
視線を彼女に合わせると、薄っすら涙を浮かべていた。
確かに心臓の音は手を通じて、伝わってくる。
だからといって、なにがわかるんだ。
そりゃ生きているんだから、当然だろうに。
「すまんが、手を離してもいいか? お前の言いたいことがさっぱりわからん」
俺がそう言うと、彼女は頬を膨らませて、不機嫌そうにする。
「これでも思い出せないの? いいわ……じゃあ、これならどう?」
ススッと、心臓から少し下に手をおろす。
そして何を思ったのか、俺の右手を介して、自身の胸を揉み始める。
「お、おい! なにをする!?」
慌てる俺を見ても、彼女は特に驚くことはない。
人目も気にせず、自身の片乳を揉ませる。
「ほら……あの時の約束でしょ? 私の胸が貧乳だったら、結婚するって」
それを聞いた俺は、バカみたいに大きな声で叫ぶ。
「け、け、結婚だと!? お、お前は何を言って……」
だが、そんなリアクションとはお構いなしに、胸を揉ませられること、数分間。
確かに俺好みの貧乳だ。
瞼を閉じてみる。
どうやら、過去の俺はこの子の胸を揉んだことがあるらしい。
しばらく感触を味わっていたら、思い出すかもしれん。
自由に触って良い機会なんて、中々ないしな。
プニプニしている……柔らかい。
小ぶりでちょうど良いサイズ。
素晴らしい。
しかし、服の上からとはいえ、あまりにも柔らかすぎる。
なぜだ?
この感触は……そうか。ブラジャーをしていないんだ。
だからか。
ってあれ? 以前、アンナとプールでおっぱいを触ってしまった時は、もっとこうなんというか、人工的な柔らかさ。シリコンみたいな感じだったよな。
それにアンナはカチカチってぐらいの絶壁……。
その瞬間、目を見開く。
確信したからだ。
「お前! 女だろ!」
言った後で、自分でもアホな発言だと思った。
「え? 当たり前でしょ?」
すごくバカにした目で睨まれてしまう。
「違う! 俺が言いたいのは……」
待てよ。こいつの目。おかしい。
夕陽に照らされて輝く2つのブルーアイズ。
グリーンじゃない!?
激しい頭痛が俺を襲う。
頭の中がバチバチと激しい閃光が走る。
けたたましい雷が鳴り響くような。
体感にして、1時間ぐらい起こった気がする。
それらが治まった後……1つの言葉が、自然と口から出てきた。
「マ……リア。お前、マリアか?」
「やっと思い出せたのね。タクト、ただいま」
彼女は優しく微笑む。
まあ、この間もおっぱいは揉みしだいているのだが……。