「うっ! DOセンセイ!」
 顔を真っ青にさせる白金。
「どうした?」
「すいません……今、めっちゃ太くて長いのが出そうなんで、またお手洗いに行ってきていいですか?」
 こいつは、いちいち汚い情報を追加しやがる。
「行けばいいだろ」
「30分以上はかかると思うんで! あ、ヤベッ。漏れそう……じゃあ行ってきます!」
 そう言って白金は、走り去る。
 本当にガキじゃねーか。あのバカ。

   ※

 俺はまたしばらく暇を持て余すことに。
 ボーッとしていたら、アンナからL●NEが届く。
『タッくん。このマンガ、すごく良く描けてるね☆ アンナが写真みたい☆ これ大好き!』
 それ、俺が描いたんじゃないんだよなぁ。
 しかし、モデル本人が喜んでくれたんだ。
 嫌な気分ではない。
 とりあえず返信しておく。
『それは良かったな。これもアンナの取材のおかげだ。ありがとう』
『ううん☆ 二人で頑張ったからだよ☆ これからもいっぱい取材しようね☆』
 その一言で、自然と口角が緩む。
 また、あいつとデートできるってことか……。
 スマホを見ながら、アンナとのL●NEを楽しんでいると。
 画面が急に暗くなった。
 雲で太陽が隠れてしまったのかと、空を見上げる。
 だが、今日は雲1つない日本晴れだ。

「ん?」
 それは人の影だった。
 目の前に視線をやると、1人の少女が立っていた。
「あの、サイン会はここであっているのかしら?」
 随分と上品な喋り方だなと思った。
「そうですが」
 俺がそう言うと、少女はニコリと笑う。
「フフッ。タクト……遂に約束を果たしてくれたのね。嬉しいわ」
「へ?」
 どうやら、顔見知りらしい。
 俺は、その声の持ち主をじっと見つめてみた。

 黒を基調としたシンプルなデザインのミニワンピース。
 胸元には白い大きなリボン。
 細くて長い脚はタイツで覆われている。
 陽の光に当てられ、輝くのは金色の長い髪。
 
「あ、アンナじゃないか……」
 思わず声に出してしまう。
「何を言っているの? タクト。相変わらず、あなたって記憶力が悪いわね」
 なんて頭を抱える。
「お前こそ、何言っているんだ? さっき会ったばかりだろ?」
「冗談もそこまでくると、不快よ。とりあえず、私は約束を果たしに来たのだけど。小説はどこにあるのかしら。ネットで売り切ればかりで、買えなかったわ」
 なんだ、アンナのやつ。
 妙にお高く留まっちゃって。
 調子狂うな。
 もしかして……また新しい人格でも作ったのか?
 これも取材ってやつか。
 仕方ない。合わせるとしよう。

 とりあえず、俺は第三の人格ちゃんに付き合ってあげることにした。
 テーブルに並んでいる大量のラノベを指差して、「これだ」と説明する。
 先ほどと同じ反応で、彼女の顔は凍りつく。
「な、なによこれ……」
「え?」
「私がモデルなんでしょ、これ」
「ああ。表紙と挿絵は違うけど。小説の中身は間違いなく、お前だ」
 深いため息をつくと、財布を取り出す。
「ハァ……なら、それでいいわ。全部ちょうだい。サイン入りでお願い」
「いいのか? さっきも買ってくれたのに?」
「えぇ、そのために日本へ帰国したんだもの。タクトとの約束じゃない」
 なんか話が全然嚙み合わないな。
 一体、今度の人格はどんな設定なんだ?