ダンスショーを十二分に楽しんだアンナは、終始ご機嫌だった。
「ねぇねぇ、タッくん! 見ててくれた? アンナのダンス☆」
「あ、ああ……」
 見てはいたけど、ドン引きしてました。
 そろそろ、パンパンマンミュージアムはお腹いっぱいだ。
 まだ時間はあるが、居心地が悪い。
 周囲は家族連ればかりだし、アンナはTPOをわきまえないから、相方の俺はしんどい。

 俺はどうにかして、彼女をパンパンマン達から遠ざけようと試みる。
「なあ、アンナ。どうだろう? ここらで食事でも取らないか?」
「うーん……食べてもいいけど」
「そうだろ。今ならパンパンマンのレストランも空いているし、早めの昼食でも……」
 と言いかけた瞬間だった。

 館内のどこからか、アナウンスが流れ始める。

『パンパンマンミュージアムに来てくれたみんな~! 今から“どどんどん”の大行進が、はっじまるよ~ キンキンマンと一緒に元気いっぱい歩いてみよう!』

 それを聞き逃さないアンナではない。
 ピクッと耳をウサギのように立てて、うんうんと黙って頷く。

「どどんどんと一緒に歩けるんだってぇ☆ タッくんもやろうよ☆」
 緑の瞳をキラキラと輝かせ、ずいっと身を乗り出す。
 逃げられない。
「お、俺もか?」
「うん☆ 取材だよ。これも小説に使えると思うの!」
 えぇ……読者の年齢層が赤ちゃんに下がっちゃうよぉ。

   ※

「しゅっぱーつ! どしん、どしん! どし~ん、どし~ん!」
 大きな銀色の着ぐるみを先頭に、リズム良く脚を床に叩きつける。
 どどんどんだけではなく、その設計者でもあるキンキンマンも一緒だ。
 その背後にくっつくように、アンナは笑顔で歩き出す。
 女子とは思えないぐらいのガニ股で、手足をブンブン振って「どし~ん、どし~ん」と叫ぶ。
 白い歯をニカッと見せて、満面の笑顔だ。
 俺もその隣りで同様に歩いて見せる。
「ど、しん……どしん……」
 聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で。

 ちょっと、これめっちゃ恥ずかしいんですけど!
 しかも、ちびっ子達よりも、俺とアンナが先頭だから、悪目立ちしてる。
 アンナはお構いなしに、行進を続ける。
「どし~ん! どし~ん! 超楽しい~☆」
 ウソでしょ……。
 公開処刑の間違いだろ、これ。

 その証拠に、周囲の親御さんたちが憐れむような目で俺たちを見つめていた。

「あらぁ……あの二人、かわいそうねぇ」
「保護者の人はいないのかな? 見ていて心配だよ」

 心配しなくても大丈夫です!
 うちのヒロインが暴走しているだけで、僕はやりたくてやってるわけじゃないんで。
 そんな目で見ないでぇ……。