車内での恋愛相談が終わるころ、目的地である中洲川端駅に到着。
 二人は聞けば、やはり中洲には来たことがないという。
 まあ俺もこの街を良くは知らない。
 一期一会、毎晩人生を変えるドラマがあるというこの繫華街。
 主に居酒屋やスナック、キャバクラ、ガーズルバー。
 あとは大人の接待的な店が、あるとか、ないとか。

 俺が先導して、地下から階段を使って地上へと昇る。
 外は真夏の強い日差しで今にも火傷しそうな殺人的な暑さ。
 階段から出てすぐに見えたのは、レトロ感あふれる映画館。
 それを目にしたリキが、看板を指さして俺にこう言う。
「タクオ。今日の映画ってコレ見るのか?」
「い、いや……ここは違う」

 中洲川端のど真ん中に、あの映画館があるわけないだろう。
 ここは残念ながら、俺が一番愛している劇場、中洲サンシャインだ。
 開館して80年近くもこの地でいろんな作品を上映してきた由緒ある映画館だ。
 今時、上映後に客の入れ替えもせず、一日見放題、指定席なしの昔ながらのスタイル。
 しかも、売り子が「アイスクリームいかがですか~」なんて粋なサービス付き。
 そう。今日の目的地はここじゃない……。

「じゃあどこにあるんだよ?」
「マジでいいんだな……リキ? 覚悟はできているな?」
 最後に念を押しておく。
「うん、いいぜ!」
 とスキンヘッドを光らせて、親指を立てる余裕っぷり。
「そ、そうか……お前の覚悟はしかと受け止めた。ならば、案内しよう!」
 胸は痛むが、俺も男だ。
 ダチのためにこれぐらい……。

 とりあえず、中洲サンシャインに背を向けて、近くの交差点を渡る。
 道路を挟んで反対側には、あの美味くて有名な博多ラーメン、『二蘭』の本社ビルが立っている。
 中洲の一等地にそびえ立つ高層ビル。どの階も赤ちょうちんがたくさん並んでいて、観光客が来ても一発でわかるだろう。
 アンナがそれを見て、大喜び。
「あぁ~ ラーメンのビルだぁ~☆」
 だが俺はそれを無視する。
 今から戦地へと向かう兵士に対して失礼だからな。

 メインストリートである明治通りを抜け、狭い裏通りへと入る。
 一気に空気が重く感じる。
 たった数歩通りから外れただけなのに。
 ビルとビルの狭間だから、陽の当たりも悪く、日中だというのに、薄暗い。
 そして道を歩く、人も少ない。
 たまに電柱にもたれかかっている男を見かけるが、どこか怪し気に感じる。
 こちらをチラチラと見て、タバコを吸っている。

 そんな薄暗い通りを歩くこと数分。
 ついに見えてきた。
 思ったより小さな映画館だ。

「さ、ここだ。リキ、悪いが一人で行ってくれ」
「え? 俺だけ? タクオとアンナちゃんは?」
「悪いがアンナは女の子だから、お前が映画を見終えるまで、この辺で待機している」
 巻き沿いはごめんだ。
 悪魔に魂を売った気分。