ひなたとアンナが一応、仲直りしたところで、話を聞いていた宗像先生が今後、トラブルのないように、提案を出した。
「互いの取材、デートは邪魔しない。遭遇しても相手に譲ること」
「というか、そうじゃないと恋愛小説じゃない」
 正論を言われてしまい、二人のヒロインは渋々、それを承諾した。

 宗像先生が俺に
「どうしてそこまで取材する必要性があるのか?」
「また、そんなにデートすると金が足りないだろ」
 と質問された。
 だから、俺は
「ラブコメの話に使えることなら、大体、出版社が経費で落としてくれる」
「白金が特別に許してくれた」
 と説明する。

 すると、先生は走らせていた車を急停止する。
 キキーッ! という音に、俺は思わず耳を塞ぐ。
「はぁ!? デートして遊ぶくせに、経費で落ちるのか!?」
 なんて俺の目を見て、大きく口を開いて驚いている。
「は、はい……ていうか、危ないじゃないですか。急に道中で停まるなんて……」
 俺の言葉は宗像先生に聞こえていないようだ。
「なんてこった……盲点だった……」
 と独り言を呟いて、ハンドルの上に顎をのせ、頭を抱え込む。

 信号でもない一本道の車線だったので、背後に止まった車がクラクションを鳴らす。
「おい! 早く行けや! こんなところで停めてんじゃねぇ!」
 それを聞いた宗像先生は、窓から顔を出し、後ろの運転手に怒鳴り散らす。
「うるせぇ! こっちは死活問題なんだ! ブチ殺すぞ、コノヤロー!」
「す、すいません……」
 明らかにこっちが悪いのに、宗像先生の気迫に負けたのか、謝ってしまう。

 それからまた車を発進させたが、なにやら考え込んでいる。
「先生、どうかしたんですか?」
「……ああ、新宮。実はな。良いことを考えたぞ!」
 怒ったかと思ったら、急に目を輝かせて喜んで見せる。
「いいこと?」
「そうだ! 新宮、お前の書いている恋愛小説なんだが、ヒロインは何人いても困らないだろう? むしろ沢山いれば、童貞の読者もハーレムを味わえてウルトラハッピーだろ!」
 ラノベの読者様を、童貞と決めつけるのは、やめて頂きたい。
「ま、まあ、王道っちゃ、王道の設定ですよね……で、それとこれと、どういう意味が?」
 すると、宗像先生は、自信に満ち溢れた顔で、親指で自身のデカすぎる左乳をプニプニ押してみる。
「いるじゃないか!? ここに! セクシーで大人の魅力溢れるヒロイン候補がっ!」
「え……」
 俺は予想外の提案に絶句していた。

 後ろで話を聞いていたうら若きヒロイン達も、その提案にブーイングが飛び交う。

「宗像先生がヒロイン? 有り得ないですよ。だって、先生ってもうアラサーでしょ? おばさんに近いですよ。それに教師と生徒が恋愛なんて犯罪です!」
 とひなたが身を乗り出して、言う。
「アンナもそれは無理だと思うなぁ……読者の人って多分、10代の人ばかりだと思うもん。誰が好き好んでアラサーの婚期を取り逃した売れ残りに、胸キュンするのかな? やっぱりヒロインは、主人公と同年代じゃなきゃ、キュンキュンしないと思う」
 と控えめに言うのはアンナ。
 だが、その言葉は、宗像先生の大きな胸に、グサグサと突き刺さっているようだ。
「……」
 その証拠にハンドルを握る手が震えだした。

「アンナちゃんの言う通りだよ~ だってさ、もし商品化したとしてさ。グッズを販売するとして、私たち10代のヒロインは、即売り切れると思う。けど、宗像先生のキャラだけ絶対売れ残ると思う」
 グッズ展開までしっかり考えているのか。
「ひなたちゃんも同じことを考えてたんだぁ☆ 可哀そうだよね、そのキャラ☆ 多分、出版社の人、商品を開発する人、販売する人、全員からお荷物扱いだよ。あと、転売ヤーもそれだけは買わないで帰ると思うんだ☆」
「だよね~ やっぱり10代の女の子同士だと、話合うね♪」
「うん☆ ホント、その通りだね☆」
 と後部座席では、話が盛り上がっているが、俺の座っている助手席では生きた心地がしない。

 宗像先生の目つきがどんどん鋭くなり、険しい顔で運転が荒くなっているからだ。

「おい……小便臭いメスガキ共、お前らいい根性しているな。新宮は今から私と取材をする。お前らはここで降りて帰れ」
 ドスの聞いた声で、二人を脅す。
「「はぁ!?」」
 当然、アンナとひなたは、抵抗しようとするが、時すでに遅し。
 バス停も駅も見えない田舎の一本道に、放り投げられた。

「ひど~い!」
「タッくんを返して!」

 そんなことを隣りに座る、この破天荒教師が聞く耳を持つもわけなく。
「やかましい! お前らは歩いて帰れ! 新宮は私が責任を持って、取材の相手をしてやる!」
 こちらの意思なんぞ関係なく、勝手に取材が決まってしまう。
 そして、二人を残して、猛スピードで車を飛ばす。

「ははは! さ、新宮。大人の魅力ってやつをたっぷり教えてやるからな」
「……」
 俺、今夜無理やり襲われるのでしょうか? 絶対に嫌です。