宗像先生に一喝されたひなたとアンナは、しゅんとして黙り込んでしまった。
そしてなぜか、俺の頭をげんこつでポカン! と殴りつける。
「いってぇ!」
「新宮。お前が悪い。とりあえず、ここから出るぞ」
そう言って、俺達は強制的に水族館から退場させられた。
宗像先生は近くの駐車場に車を停めているとのこと。
まだびしょ濡れだったひなたの姿を見て
「車の中に着替えがある。それを着ておけ」
と車内へ誘導した。
宗像先生の所有する車は、なんとあの高級車ベンツのジープ。Gクラスというやつだ。
窓はスモークガラスで外から中を見ることができない。
とりあえず、残された俺とアンナは駐車場で二人して待つことになった。
なんだか気まずい。
「アンナ……どうしてこんなことをしたんだ? そんなに俺が信用できなかったのか」
彼女は暗い顔で俯いていた。
どうやら少しは反省しているようだ。
「だっ、だって……。ごめん、タッくんが他の子と一緒にいるのが辛くて……胸がギューッて締め付けられちゃうの」
緑の瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。
「そ、そうか。配慮が足りなかったのかもな……だが、謝るなら俺ではなく、ひなたの方がいいと思うぞ?」
「うん……あとでちゃんと謝る」
※
着替えが終わったひなたの登場。
だが、その装いがどこか見慣れた衣服だった。
白い体操服に紺色のブルマ。
三ツ橋高校のものだ。
「って、なんで体操服にブルマなんですか!?」
「あん? 文句を言うな。私が日頃から三ツ橋高校で拝借しているものだ。寝巻きにちょうどいいからな。あとたまに部活帰りの生徒が、忘れていった汗臭いブルマを、ネットオークションに出品すると高く売れるからな、だぁはははっははは!」
「えぇ……」
もう教師やめちまえよ、こいつ。
「なんだ? 新宮、お前も着たいなら車内に山ほどあるぞ?」
誰が着るか!
「遠慮しておきます」
四人でジープに乗り込む。
もちろん宗像先生が運転席、その隣りの助手席は俺。
後部座席にひなたとアンナが並んで座る。
先生が俺のことでまた二人がケンカするからと遠ざけたのだ。
窓を開けて海辺の道路を突っ走る。
沈黙の車内、どうにも息苦しい。
見兼ねた宗像先生がこう切り出す。
「で、そこのブリブリ女。お前、誰だ? 本校の生徒じゃないな?」
「ぶ、ブリブリって……アンナのことですか……」
初対面の女性に、毎回言われるのか、それ。
バックミラーで彼女を確認したが、かなり落ち込んでいる。
対して、ひなたは、隣りのアンナを見て嘲笑う。
「アンナちゃん以外いないでしょ。そんな痛い女」
視線は窓の外。手に顎を乗せて、他人事のようにぼやく。
「お前、アンナというのか? とりあえず、お前らメスガキ共は、このイカ臭い新宮で盗りあってケンカしていたな? 理由はなんだ?」
しれっと人をディスりやがった。
アンナがその問いに答える。
「あ、あの……タッくんは取材、デートをしないと小説の世界に活かせないんです。だから私……アンナが取材の協力をしていて……」
それを聞いた宗像先生は、吹き出す。
「ブフッー! お前か!? この新宮に付き合っている物好きな女は!? だぁはははっははは! やべっ、超面白い!」
「あの、まだ付き合っては……いません」
頬を赤くしてモジモジしだすアンナさん。
「なるほど。友達以上彼女未満てやつか? で、赤坂は?」
話を振られたひなたは、嫌味たっぷりに答える。
「今日は私がデートの日だったんです! なのに、この隣りにいるブリブリアンナが邪魔してきたんですよ!」
やめてあげてぇ、人のアンナちゃんをウンコぽくするの。
「それは良くないな。だからケンカになったわけか……くだらねぇ、ガキの痴話げんかだな、けっ!」
ちょっと、この人。最後、私情持ち込んでいるだろ。
「ひなたちゃん、アンナ……私が間違ってました。本当にごめんなさい」
律儀に頭を下げて、丁寧に謝罪する。
「わ、分かればいいのよ。でも、こっちだってセンパイを譲るわけにはいかないわよ!」
「うん☆ 命がけでタッくんを奪い合うんでしょ? わかってる☆」
「そうよ、先輩の取材は、相手を殺す勢いがないとね」
なんか意気投合しちゃったよ? この二人。
てか、俺を殺すのはやめてね……。
隣りで運転をしていた宗像先生が舌打ちし、俺の腹を肘打ちする。
「くだらねぇもん、見せつけるな。新宮」
「す、すいません……」
なんで、俺ばっか痛い目に合うの?