一ツ橋高校が終業して、一週間が経とうとしていた。
今の俺と言えば、暇で暇で仕方ない。
もちろん、仕事はしている。
朝刊と夕刊の配達だけ。小説の方は、最近書いてない。
勉強もない。夏休みの宿題なんて、バカ高校だから論外だ。
入学する前は、あんなに勉強だとか、スクリーングとか、人に振り回されるのを嫌っていたのに。
いざ、自分の時間が出来ると、退屈すぎて死にそうだ。
唯一の楽しみと言えば、アンナやミハイルの写真をパソコンで整理しつつ、別府旅行でゲットしたパンティをクンカクンカすることぐらいだ。
この日も夜な夜な1人で、アンナの香りを楽しんでいると……。
しばらく、うんともすんとも言わなかったスマホが、急に鳴り響く。
「も、もしもし?」
『DOセンセイ! お久しぶりですって……なんか声が変じゃないですか?』
「は、はぁ?」
声が裏返る。
『ひょっとして……自家発電の最中でした?』
「ち、ちげーし! 今小説の大事な資料を確認していただけだし!」
間違ったことは何一つも言ってない。
だって取材対象から提供してもらった資料のピンクパンティなのだから!
『そうですか。まあ童貞のセンセイの私生活とかどうでもいいっすわ。で、仕事の話なんですけどね』
しれっと人格否定すな!
「ああ、この前送った原稿か?」
『はい。朗報ですよ! 編集長にも読んでもらって無事に許可がおり、出版決定となりました! あとは校正とか色々細かいチェック終われば、二か月後の9月ぐらいに書店に並びますよ!』
「えぇ……なんか出版まで早くね?」
俺の他の作品なんて、打ち切りとか何回もボツにされたのに。
『そうなんですよ~ 編集長から私も褒められてましてぇ~』
自分の功績のように嬉しそうに語るな。
俺がどれだけ苦労して取材したと思っているんだ。
「へぇー」
『なんかあんまり嬉しそうじゃないですね?』
「別に……」
なんで他の作品は褒めてくれないんだよぉ~!
『あとコミカライズも同時進行してますよ? 編集長がめっちゃ気に入ってて、ラブホのシーンとか胸キュンが止まらないって♪ もうあれです。“気にヤン”は博多社が総力をあげて宣伝しまくるそうですよ!』
ファッ!?
なんか急に恥ずかしくなってきた。ほぼ私小説だからね。
「そ、そうなの? コミカライズもしちゃうんだ……」
『ええ! 原作もコミックも売れたら、も~う止まりませんよ! アニメ化、ドラマ化も夢じゃありません! ついでにも映画化の話まで出ているんですから!』
「……」
全世界に、俺と女装男子のイチャイチャが晒されるのかよ。
生き恥じゃん。
『ということで、引き続きDOセンセイは取材と執筆を頑張ってください! あとはトマトさんが表紙と挿絵さえ描いたら、発売日を待つだけです!』
「そういえば、そうだったな」
トマトさんがギャルの花鶴 ここあをモデルに、ヒロインのイラストにするとか、言ってたな。
『じゃあセンセイ。取材費なら経費で落としまくってやりますので、せっかくの夏休みなんだし、取材対象の方で、童貞でも捨てて来てくださいね♪』
「おまっ!」
キレようとした瞬間、
「ブチッ!」と一方的に電話を切られてしまった。
「はぁ……」
なんでこんなに私小説の方が人気でるかねぇ。
ため息をつくのも束の間、再度電話が鳴り出す。
着信名はアンナ。
「もしもし?」
『あっ、タッくん☆ 久しぶりだね!』
いや一週間前にパンツくれたじゃん。
「ああ、別府以来だな」
『うん楽しかったね。ホテルの取材☆』
その言い方だと俺と関係持っちゃってるみたいじゃん。
「まあな」
『ところで、タッくん。夏休みだよね? アンナと取材しよ!』
気持ち良すぎるぐらいのグッドタイミングだ。
「おお、ちょうど編集から指示を出されたところだ。どこに行く?」
『ホント? じゃあ来週の大濠公園花火大会に取材しよ☆』
「花火大会かぁ……」
子供の時に行ったきりで、最近はニュースでしか、映像を見ない。
リア充どものイベントだと遠ざけていた。
『え、イヤなの?』
受話器の向こう側から、不安そうな声が聞こえてきたので、即座に否定する。
「全然だ! 問題ない! むしろ久しぶりの花火大会にかなり期待しているぞ!」
『良かったぁ~☆ じゃあ来週にね☆』
「ああ約束だ」
電話を切って、ふと気がつく。
左手には未だにアンナのパンティを握っていたことに。
ガチャンと自室の扉が開く音が聞こえた。
妹のかなでが部屋に入ってきたのだ。
「おにーさま……とうとう下着ドロボーをされたんですの?」
「い、いや、これは違うからな? 貰い物だ」
「見損ないましたわ! ミーシャちゃんに告げ口してやりますわ!」
「そ、それは……やめておいたほうがいいと思うぞ……」
だって、マジでくれた本人なのだから。