超絶腐女子の北神 ほのかに告白して、無惨に散ってしまった千鳥 力だったが。
なんとマブダチであるミハイル。いや正体を隠している女装男子アンナちゃんから、
「まだチャンスはあるよ☆ 取材してあげたらいいんだよ☆」
と優しく彼の手を握る。
取材と言っても、彼女のいう取材とは、ほのかの描くBLマンガのために『同性愛』。
つまり、リキ自身が見知らぬ、おじさまと仲良しすれば、きっと腐女子の彼女は振り向いてくれる。
そう提案したのだ。
理解できていな当のリキと言えば、希望を見出したかのように、瞳をキラキラと輝かせる。
「ありがとな! アンナちゃん! 俺も取材を頑張ってみるぜ!」
やる気出すなよ、リキの兄貴……。
「うん☆ リキくんなら絶対ほのかちゃんと恋仲になれるよ☆ ていうか結婚できると思うの☆」
生涯、苦労すること間違いなし。
「おお! じゃあ、さっそく取材のために、なにをすればいいかな?」
すると、アンナは俺の方を見つめる。
怪しく微笑んで。
「タッくん☆ 教えてあげてね」
「は、はい!」
目が笑ってないから、怖すぎる。
とりあえず、俺はリキと携帯電話の番号とメルアドを交換し、後日連絡するとだけ言っておいた。
あんまり関わりたくないけど……。
※
意気投合したリキとアンナは、両手で握手を交わし、
「お互い頑張ろうぜ!」
「頑張ろうね☆」
なんて男同士の友情が深まってしまう。(女装してるやつと)
リキは嬉しそうにエレベーターで自身の部屋に戻っていく。
二人になった途端、アンナは俺の顔をじっと見つめる。
いつもの優しい彼女に戻っていた。
「タッくん。今からどうしよっか?」
「ああ……どうするかな……」
その時だった。
背後に人影を感じたのは。
「あれぇ~? オタッキーじゃ~ん!」
振り返ると、そこには伝説のヤンキーの一人。
どビッチのここあこと、花鶴 ここあだ。
「は、花鶴!?」
動揺を隠せない。
なぜなら、俺の隣りに、彼女の親友でもあるミハイルが女装して立っているからだ。
だが……先ほど、リキの前では、アンナの正体はバレていなかったな。
今回もやり過ごせるのでは?
「あ、ここあ……」
思わず、口からこぼれてしまう。
俺に聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声だったが、完全に素のミハイル。
「ん~ 隣りの子って……」
マジマジとアンナを眺めるここあ。
上から下まで。
アンナと言えば、額から尋常じゃないぐらい大量の汗を吹き出している。
「あ、あ、ども~ わ、私。ミーシャちゃんのいとこで、古賀 アンナって言います~」
緊張からか、声が裏返っている。
「はぁ? ミーシャのいとこ? あーしさ。ミーシャとすっごい長い仲なんだけど。聞いたことないよ」
睨みをきかせ、背の低いアンナに目線をあわせるため、腰を曲げて、彼女の顔を覗き込む。
「え、えっと……その。私は、遠くに住んでいたから、ここあちゃんも知らなかったんだと思う、よ?」
なぜ疑問形。
「ああん? あんたさ。あーしをなめてない?」
日頃バカそうな花鶴にしては、かなり苛立っているように見える。
それに脅えるアンナ。
「な、なめてない! なめてないよ!」
小さな顔を左右にブンブン振り回して、否定する。
「大体さ、なんであーしの名前を知ってんの? おかしくない?」
正論だ。自ら墓穴を掘ったな。
設定がたまに壊れちゃうんです。うちのアンナちゃん。
「いや……これは違くて。ミーシャちゃんに話を聞いてたから……」
頭がバグッてるぐらい挙動不審だ。
こんなアンナ初めて見るかも。
「ていうかさ。ミーシャにそっくりじゃん! 双子? 隠し子? あーし、今度ヴィッキーちゃんに聞いてもいい?」
「ダ、ダメぇ!」
この時だけは、強く反論する。
そりゃそうだろうな。
「ふーん……なんかさ。あんたって、胡散臭いんだよ」
目を細めて、マブダチのグリーンアイズをじっと見つめる。
「く、臭い?」
意味を履き違えている。
「うん。なんつーのかな……童貞が考えたテンプレの痛い女? ブリブリ女て感じ?」
酷い!
だが的を得ている!
だって、俺の願望が詰まった理想の女性像なんだもん……。
「そ、そんなぁ……」
半泣き状態のアンナちゃん。
「服もさ、男に媚びつくした甘々ファッションだし、メイクも気に入らないっしょ。てか温泉に来てんのに、ヒールの高いサンダルってバカ丸出しじゃん。清楚系ビッチって感じっしょ」
どビッチに言われちゃ、おしまいですよ。
「酷い! ここあちゃん!」
あまりにも辛口過ぎて泣いちゃった。
「あーしってダチ以外には優しくできないから!」
いや、マブダチが目の前いるでしょ。
「ぐすん……」
「ていうか。マジで偽物ぽいわ……。あんたマジでミーシャのなんなの? ミーシャ、泣かしたら殺すからね?」
ドスの聞いた声で睨みをきかせる。
ていうか、本人を泣かせたのは、君だよ?
「うわぁん! ここあちゃん、最低! もうタッくん、いこっ!」
泣き出したアンナは俺の手を掴むと、ロビーから逃げ去る。
「ちょっ! まだ話は終わってないっしょ!」
花鶴を無視して、エレベーターに入りこむ。
なにも出来ずにいた俺は、彼女の身を案じた。
「す、すまない。アンナ……俺のクラスメイトが酷いことを言ってしまって。でも気にするな。アンナのファッションや優しい性格は、誰よりも俺がよくわかっているつもりだ。もう泣くな」
「う、うん……あの子、まだロビーにいるよね? 怖いから、タッくん。アンナの部屋まで一緒に来て……」
「了解した。って、えぇ?」
部屋に入るのか……。
間違いはないように心がけよう。
股間の方は正直になりつつあるが。