「ふむ……」
 授業の時といい、なぜリア充と非リア充はこんなにも分断されるのか……。
 俺たちは紛争状態なのか?

「おっほん!」

 咳払いしたと同時にセクハラ教師のメロンが、上下左右に踊り出す。
 やめて……きついっす!

「今日は初めてのスクリーングの生徒もいるからな……簡単に説明するぞ」
 そう言うと、宗像先生はバレーボールがたくさん詰まったカーゴを持ってきた。
 げっ! よりによってバレーか……。
 俺は自慢じゃないが、生まれつき球技は苦手なんだよ!
「いいか! よく聞けよ、半グレども!」
 だから『俺たち』は半グレじゃねーーー!

「今日はこれからこのボールで2時間遊び倒せ!」
「ウソでしょ……」
 呆れる俺とは対照的に、リア充グループから歓声があがる。
 おいおい、お前ら授業ではえらく不真面目なのに、遊びに関しては勤勉なことですね。

「ミーシャ♪ 一緒にやろ」
「シャーーー! やるぜ! ミハイル」
「う、うん!」

 ミハイルさんまで、えっらい元気じゃないっすか……。
 さすが伝説の『それいけ! ダイコン号』の三忍だとこと。

 と……思いにふけている間に、俺は一人ぼっちになっていた。
 しまった!
 クソ……もう既に皆(非リア充)はグループを作ってしまった……。
 このままでは、宗像先生とイチャイチャバレーになってしまう。
 それだけは回避したい。

「あの……」
 か細い声が俺を呼ぶ。
 振り返るとそこには見かけたことのあるキノコ! じゃなかったおかっぱ男子が一人。

「確か……日田だっか?」
「え? なぜ拙者の名を?」
 男二人で互いの顔を見つめあう。
「おまえ、さっきトイレで話しかけただろ? 日田(ひた)?」
「いえ、拙者は遅刻してきたので、先ほど校舎に着いたばかりですが……」
「いやいや、お前は確かに日田なのだろ? ほら、さっき古賀のことを……」
「なりませぬ!」

 日田が俺の口を塞ぐ。
「ふぐぼごご……」
「申し訳ない、がっ! その名を口に出してはなりませぬ。殺されますぞ!」
「ふご、ふご」
 首を縦に振る。

「ぶっは! なにをする!? お前は日田 真一だろうが!」
「失礼をば。氏の身を案じたが故の無礼を……ですが、拙者は真一ではありません」
「なんだと!? じゃあお前は?」
「……拙者は日田真二(しんじ)です。真一の弟です。兄ならそちらに」
 そう言って指差した壁に、縮まったおかっぱがもう一人。
 どうやら病欠らしい。つまり見学。
 一ツ橋高校は病弱な生徒も熱心に入学させていると聞いた。
 きっと兄の真一もその類なのだろう。

「あ……本当だ」
「拙者たちは一卵性の双子です。日田家が次男、真二と申します。以後よろしく」
 ご丁寧に頭をさげる。
「そうか……真二か。認識した。俺は新宮 琢人だ」
「新宮殿、拙者とバレーボールしませんか?」
「まあ構わんが……」

  ~10分後~

「ではいきますぞ~」
「来いっ!」
 日田 真一ではなく、弟の真二が「はーい」と律儀にも掛け声とともに優しいサーブ。
 俺も影響を受けたのか「はーい」と返す。
 続けること1時間……なにが楽しいのこれ?

「はぁはぁ……やりますな。新宮殿」
「やるもなにも……二人でやってるだけだろ……」
「確かに……では次こそ、本気でやりましょう!」
「構わんが……」
「いきますぞ!」
 真二の強烈なサーブが俺の横っ面をかする。
 見事な豪速球! いや、当たってたらケガしてだろ……。
 本気すぎて、ドン引きだわ。

「ああ! 新宮殿!?」
「え?」
 真二の慌てぶりを見て、振り返る。
 豪速球はリア充グループに向かって、一直線!
 やばい……ほぼヤンキー軍団に直撃すること不可避……。

「いがん! よでろ!」
 普段大声を出さないせいか、痰がらみで上手いように喉が鳴らない。
 ただ、俺の叫び声に何人かの生徒たちは気がつき、危険ボールを察する。

「逃げて!」
「危ない!」
「死ぬぞ!」

 人波が掻き分けられ、最後に残ったのは伝説の……金色のミハイル!

「ミーシャ! よこ!」
「よけろ、ミハイル!」
 危険を察知した花鶴と千鳥。

「え?」
 だが、ミハイルはキョトンとしながら花鶴と千鳥の顔を見つめている。
 なにをやっているんだ!? ミハイルのやつ!

「古賀ぁ!!! よけろぉぉぉ!」
「タクト……?」
 振り返った時、遅い……と俺は思わず目をつぶってしまった。
 怖かったんだ、目の前で可愛い子がケガするところを。
 彼女いや……奇麗なミハイルの顔に傷が入るなんて、ましてや出血するところなんてみたくない。

「クッ!」
 後悔から唇を噛みしめる。
「新宮殿……見てくだされ」
 真二の声でようやく瞼を開くとそこには、驚愕の映像が俺を釘付けにした。

 華奢で、女みたいな顔で、俺より身長も低いのに、古賀 ミハイルは豪速球を片手で静止させていた。
 なんなら、ボールを指上でクルクルと回して遊ぶ余裕っぷりだ。

「さすがは、金色のミハイル……」
 隣りにいる真二がそう漏らす。
「なあ、その金色っているか?」
 めっさ笑顔で俺に手を振っているよ……ミハイルさん。