同室になった千鳥と俺は、一旦部屋に荷物を置きに行く。
 部屋は8階の一番奥。
 エレベーターからは、かなり遠いが、窓から見える景色は最高だ。
 洋室で大きなベッドが二つ。小さなテーブルがあった。


 事前に用意していた千鳥は、バッグから水着や浮き輪などを取り出す。
 俺と言えば、なにも所持していない。
 だって、旅行なんて聞いていなかったんだからね……。

 持参したものといえば、簡単な筆記用具といつもの相棒、ノートPCぐらいだ。
 このままでは、本当に千鳥が言うように、ブリーフでプールを泳ぐことになるのだろうか。

 頭を抱えていると、千鳥がテーブルの上にあるパンフレットを俺に見せつける。

「なぁ、タクオ。ここのプールってレンタルの水着あるらしいぜ?」
「ま、マジか!?」
「ああ、有料だけどな」
「助かったぁ……」
 俺が胸をなでおろしていると、千鳥がこう言う。
「でもよ、服はどうすんだ? 下着がないじゃん」
「う……」
「俺のはサイズがデカいからタクオには履けないぜ? 宗像先生からパンティーでも借りろよな」
 えぇ……だってレースのTバックだろ……。
 もう俺はお嫁にいけないかも。

   ※

 支度を終えると、俺たちは再び、ロビーに降りた。
 ホテルの玄関外には、常に移動用のバスが待機している。

 ここ、松乃井ホテルは巨大な敷地と急斜面の長い坂に建てられている。
 だから、各施設に移動する際は、バスを使った方が良いと職員に促された。

 バスはもちろん無料。
 俺と千鳥が車内に入ると、見慣れた顔ぶれが揃っていた。

 宗像先生、日田の双子、北神 ほのか、長浜 あすか。

「おう、新宮たちもプールに行くのか!? 乗ってけ乗ってけ!」
 言いながら、ハイボールをがぶ飲みする宗像先生。
 足もとに、空き缶の山が出来ていた。
 こいつ、もう死ぬな。

「あれ、ミハイルはいないな……」
 あいつのことだから、すぐにバスに乗っているかと思ったが。
「古賀か? あいつなら、花鶴と前のバスに乗ってたなぁ~」
 豪かいにげっぷをする独身女性、宗像 蘭さん。
「そ、そうっすか……」


 プールに着くと、俺はすぐに男性用の水着をレンタルした。
 金はもちろん、自腹。
 精算を済ませていると、宗像先生があるものを俺に渡す。
「ほれ。着替えがないんだろ? 下着ぐらい替えないとダメだぞ♪」
 そう言って何か丸いものを、俺の手に残し、去っていく。
 広げて見れば、紫のレースパンティー。Tバック……。
 レジのお姉さんが、「うわっ」とドン引きしていた。
 クソがっ!?

 二階に上がって男子の更衣室へ入る。

 中はかなり広い。
 この前、アンナと海ノ中道のアインアインプールに行ったが、規模が違う。
 数百人は入れそう。

 着替えを済ませると、誰かが俺の背中をポンポンと叩いた。

 振り返ると、そこには男子更衣室に似合わない可愛らしい女の子……ではなく、ただのミハイルきゅん。

「おっせーぞ、タクト!」

 既に水着に着替えていた。

 俺はまじまじと彼をながめる。上から下まで。

 何故かって?
 アンナモードとの比較をしておかねば!

 男装時なんだから、お乳首を隠す必要はないはずだ。
 それがすごく気になる。
 俺はプロの作家だ。
 そう、これは取材。ヒロインの特徴を把握しておかないと作品に還元できない。

「……」

 黙って彼を見つめる。

 ボトムスは黄色でドット柄のボクサータイプ。
 かなりタイトなデザインだ。彼の小さな桃尻がプリッと目立っている。
 肝心の胸部は……なっ!?

「なぜ着ているっ!?」

 思わず声に出してしまう。
 激しく動揺した俺は、彼の胸元を指差した。

「な、なぜって……胸は隠すに決まってんじゃん! バカなの、タクト!?」

 おいおい、おバカなミハイルくんに、馬鹿呼ばわりされちゃったよ。
 てか、男は普通、胸は出すもんだ。
 チッ! 見れるかと思ったのに……。
 ちょっと、すねてみる。

「オレの今日の水着、そんなに不満?」

 頬を膨らませて、上目遣い。

「いや、似合っているよ……」
「じゃあなんで、そんな怒ってんの?」
「怒ってないさ」

 確かにカワイイ。似合っている。
 トップスは同系色のタンクトップタイプ。

 ボーイッシュな感じで、すごく好きです。
 でも、僕は中身が見たかった!

「なぁ。タクトってば、なんで泣いているの?」
「いや、目にゴミが入っただけさ……」
「それってヤバいじゃん。目薬貸そうか?」
「だ、大丈夫だもん……」
「変なタクト」