サンオイルをお互い仲良く塗りあった後、しっかり準備運動をする。
 まずは流れるプールに入ることにした。

 アンナはバナナの浮き輪を持って、水の中に浮かばせる。
 そして、ひょいっと浮き輪にまたがる。

「アハハッ! 楽しい~☆」

 お馬さんに乗る幼児のように、はしゃぐ15歳(♂)
 まあ、アンナだから許せる所業か。
 それを下から、俺は眺めて泳ぐ。
 いいアングルだなぁ~
 もちろん、自撮り棒を手に持ち、ローアングルからの動画撮影中だ。
 どんなアンナも見逃すことはできない。

 しばらく、そんなことをして遊んでいると、後ろから若い男たちがキャーキャー騒いで、こっちに近づいて来る。
 水面でボール遊びして、俺たちに気がついていない。

 ドンッ! と大きな音を立てて、アンナの乗ったバナナボートが転覆。

 咄嗟に、俺は自撮り棒を投げ捨て、水中に滑り落ちる彼女を両手でキャッチした。

「キャッ!」
「だ、大丈夫か!?」

 辺りは静まり返る。
 なぜかと言うと、俺の両手にある。
 ムニムニ……その感触を味わう。
 あまりやわらかくない。不自然な感じ。
 そうだ、人工的な肌の感触、シリコンとか……つまり、それを外してしまえば、カッチカチやぞ! てなぐらいにぺったんこ。
 
 事故だが、大事な取材対象の胸を揉んでしまった。
 今も尚、俺の両手はなかなか彼女の小さなおっぱいから、逃れることができずにいる。
 魅力的すぎるのが悪い。
 体感で言えば、5分ぐらい揉んでいたような気がする。

 落ち着け、まず謝ろう。

「す、すまん……」
 ここで、ようやく彼女の身体から手を離す。
 アンナといえば、顔を真っ赤にして俯いていた。
 泣いているのか? と心配した。
「……ううん。アンナこそ、嫌な思いさせなかった?」
「え?」
「アンナっておっぱいないし、ていうか、硬かった……でしょ?」
 頬を赤らめて、恥ずかしそうにしている。
 気にするところ、そこなんだ。
 不慮の事故とは言え、怒っても良そうなもんだが。
「う……まあ、その……別にデカければ良いってもんじゃないだろ」
 俺ん家のかなでみたいに、キモ巨乳だったら、しんどいよ。
「でも、アンナの胸ってぺったんこだし……」

 気がつくと、彼女が乗っていたバナナボートはどこかに流れて行ってしまった。
 俺のスマホも同様に。

 流れるプールだと言うのに、俺とアンナはそこで立ち止まり、流れに反している。
 他の泳いでいた客たちは、その様子を見て、カップルがケンカしているように見えたようだ。

「ヒューヒュー、プールで愛の告白かよ」
「うっわ! こんな暑い日に他人のイチャイチャとか見たくねぇ~」
「彼氏の方、キュートなお尻だわ……」

 え? 俺のこと?
 ガチの人からすると、俺のケツって、モテるんだろうか……。
 尻の力を緩めないでおこう。


「なぁ、アンナ。俺は正直いって、胸の大きな女の子は苦手だ。アンナぐらいの、その……大きさが好きだ。だから、そう落ち込まないでくれるか?」
 あれ? 言ってて、おかしく思った。
 だって、こいつ女の子じゃないよ。男の子じゃん。
「ホント!? タッくんはぺちゃんこが好きなの?」
 大きな声で人の性癖を暴露しないでください。
「う、うむ。まあな……」
「やった☆ なら安心! さ、遊ぼ☆」

 気を取り直したアンナは、俺の腕を力強く掴むと、流れてしまったバナナボートを探しにいくのだった。
 だが、先ほどの二人のやり取りを聞いたママさんたちが、俺を見て睨む。

「ねぇ、あの男。つるぺたが好きなんだって!」
「ゴリゴリのロリコンじゃない!」
「みんな、アイツに子供たちを近づけないようにしましょ! きっとロリもショタもイケるタイプよ!」

 えぇ……俺って、バイセクシャルなの?
 しかも、小児性愛者?
 病院行かなきゃ。


   ※

 バナナボートとスマホは、プールの係員が預かっていてくれたようで、無事に手元に返ってきた。
 その後もしばらく水中で雑談しながら、二人で楽しむ。

 流れるプールは、一番の人気らしく、水が見えなくなるぐらいたくさんの人で埋もれていた。
 家族や友人同士で来ている客もいるが、カップルが多く感じる。
 色んな奴らがいたが、大半は人目もはばからず、イチャイチャしていた。


 気がつけば、俺たちの周りはカップルだらけ。
 彼女が彼氏に抱っこしてもらい、自身の脚を彼の腰にからめる。
 そして、彼氏は満足そうに、そのまま歩き出す。
 コアラかよ。
 だが、そんな愛くるしい動物とは違い、相手は人間同士だ。
 交尾前のオスとメスみたい。
 互いの鼻と鼻をくっつけて、見つめ合い、笑っている。


 そう言えば、アインアインプールがある海ノ中道海浜公園の近くには、リゾートホテルやラブホがたくさんあったな……。
 前戯なら、他でやってくれ。
 小さなお子さんもいるんだから。

 俺は、そいつらを汚物を見るようかのように、見下す。
「はぁ……ここは公共の場だってのに、盛りのついたバカどもは……なぁ、アンナ? 場所変えるか?」
 俺がそう聞くと、彼女は頬を赤くして、黙り込んでしまう。
 ん? アンナモードだから、恥ずかしいのか?
「あの……タッくん……」
 白くて細い首が「ギギッ」と軋んだような音を立てて、横に動く。
「どうした、アンナ」
「あれ、やろっ……か?」
 そう言って、周りのバカップルどもを指差す。
「え?」
「カップルてさ……あーいうのをやるんだよね? フツーの恋人同士なら」
「いや、一概には言えないと思うが……」
「アンナ思ったの。ラブコメの取材には、タッくんが『ドキドキする要素が必要不可欠』だって。だから、しよ?」
 そう言って、上目遣いで、俺を誘う。
「つまり、取材に必要だと?」
 生唾を飲み込む。
「う、うん……タッくんさえ、いいなら」
 頬を赤くして、視線は水面に。
 黙ってはいるが、「早くしよ」と、俺からの返事を待っているように感じた。
「そうだな……なんでも、やってみないことには、始まらないものな。挑戦してみるか」
 アンナは黙って頷く。


   ※

 黙って水中をゆっくり歩く。
 ただ違和感があるとしたら、視界が塞がれている。
 ピンクのフリルがついた可愛らしい水着。
 白くて細いウエストに、小さなおへそ。
 
 彼女の体温が肌を通して、伝わる。
 アンナは俺の腰に脚を回して、腕は背中に回す。
 太陽の光りで、彼女の顔は影になり暗くなっていて、少し分かりづらいが、見たことないぐらい真っ赤になっているのだろう。

「どう? タッくん?」
「な、なにがだ」
「その……ドキドキする?」
 聞かんでもわかるだろ! 心拍数が爆上がりで死にそうだ!
「ああ、これなら間違いなくドキドキしてしまうな」
「そっか……なら、役に立てて嬉しい☆」
 見上げると、ニッコリ笑うアンナの可愛らしい顔が、目の前にある。
 その距離、10センチほどか。
 もうすぐ唇と唇が、くっつきそうなぐらい。
 密接している。

 一体、俺はナニをやっているんだろうか?
 男と男で。
 俺は、彼女の身体を支えるために、細い太ももを両手で掴んでいる。
 別にわざとやっているわけじゃないが、自然と彼女のヒップラインに、指が触れてしまう。
 それだけじゃない。
 大好物の貧乳というか絶壁のちっぱいが、目前にある。
 最後に、俺の股間と彼女の股間がペッティングしちゃってる。

 プールをゆっくりと歩いているはいるが、上下に身体が揺れる。
 その際、互いの股間が擦れて刺激しあう。

 り、理性がブッ飛びそうだ……。

 その時だった。
 プールサイドにあるスピーカーから、
「ブーーーッ!」
 と音が鳴り響く。

『ただいまから5分間の点検作業が始まります。係員が水中を泳いで作業しますので、お客様はプールから出てください!』

 それまでイチャこいていたカップルたちも、一斉にプールから出ていく。
 アンナも俺の身体から降りて、ドキドキタイム終了。
「タッくん、点検だって。休憩でもしよ☆」
 彼女が手のひらを差し出すが、俺は今、それどころではない。

 股間を沈静化しない限り、水面から出てはいけないのだ。
 同じ男だというのに、アンナは特に症状が出ていないように見える。
 俺だけか……。

「あの~! 君、早く出てよ! 作業できないでしょ!」

 近くの係員が、メガホンを使って注意してきた。
 だが、動けん!
 
「タッくん? 具合でも悪いの?」
 アンナが首を傾げて、俺を心配そうに見つめる。
 君が提案したのが悪いんだよ。

「ん? そこの君、具合が悪いのか?」
「あ、そう見たいです」
 違うだろ! アンナ!
「よし、医務室に連れて行こう!」
「お願いします。タッくん、プールで身体冷やしちゃったのかな」

 後に、俺は医務室で「至って健康」だと医師に告げられるのであった。