「おい! タクト、あいつは誰なんだよ!?」
 ミハイルが上目遣いで頬を膨らます。
 なんか、しかも涙目になっている。

「タクト! 聞いているのか!?」
「え……あいつは赤坂 ひなた。全日制コースの生徒だ」
「どこで知り合ったんだよ!」
 なんでそこまでムキになるんだ? そんなにあのパンティーのデザインが気に入ったか?

「この前、宗像先生に質問があってだな……その時に玄関で『不法侵入者』と因縁をつけられてな」
「んで? それでなんで、タクトの名前を知ってんだよ?」
「なぜと言われてもな……やつも俺と同じ白黒ハッキリさせたい性分らしいのだ。それで互いに生徒手帳を見せあったからな」
「……ッ」
 ミハイルはなぜかその場で顔を真っ赤にして、床を蹴り続ける。
 俺がしばらくその行為を見届けると、何を思ったのか、ミハイルはポケットから何かを取り出した。


「これ……」
「え?」
 目の前に出されたのはミハイルの生徒手帳。
「なんのつもりだ?」
「タクトがあいつと……その、白黒ハッキリさせたんだろ?」
「まあな」
「だから……オレもダチだから」
 ええ!? いつからダチ認定したの?
 意味わかんな~い。

「まあ古賀がそう言うなら……」
 俺は希望通り、まじまじとミハイルの証明写真を見つめてやった。
 ふむ、この時は髪を下ろしているな。やっぱ女にしか見えん。
 抱きたい、マジで。

「そんなに見るなよ……タクト。もういいだろ……」
 なぜ目をそらす?
「いや、もう少し見せてくれ」
「も、もういいでしょ……」
 ダーメ!
「いや、まだ見終わってない」
「まだ……なの?」
「もう少し」
「い、いやっ……恥ずかしい……」
 そんなエロゲみたいな声を出すな!
「まだまだ……」

 ガンッ!

 鈍い音が頭上で響く。
「なにをやっとるか! 馬鹿者が!」
 ズキズキと痛む、頭を摩りながら振り返ると……。

「宗像先生……」
 めっさ睨んでるやん。
 そういえば、体育と日本史を兼任しているんだったか?
 恐らくスポーツウェアなのだろうが、正直いって水着に近い。
 スカイブルーのランニング、ブルマ……?
 へそ出し、気持ち悪い巨乳のおまけつきだってばよ。
 これが今流行りの環境型セクハラというやつか。

「さっと着替えんか! 新宮、古賀」
「そ、それがですね……ここって男子更衣室ですよね?」
「は? そうだけど」
「なんか、さっき全日制の女子が着替えて、大変だったんですよ」

「だぁっはははははは!」

 相変わらずの下品な笑い方。
 しかも笑うたびにお乳がボインボインしてるから超キモい。

「結構! 結構! ラッキースケベ大勝利だな!」
「いや、顔見てわかりません? 殴られたんですよ? むしろ、こっちが被害者であることを訴えたいですね」
「どうしてだ? 女の裸を見たんだろ? それぐらい、なんてことないだろが!」
 と言って、爆笑する痴女は酒臭い。
 この教師は仕事とか言いつつ、事務所で酒飲んでじゃねーのか?
 あ、わかった。コーヒーに混ぜているな!

「とりあえず、着替えろ。たぶん、その女子は時間が間に合わなかったのだろうな」
「間に合わない?」
「ああ、以前も言ったように、我が一ツ橋高校は校舎がなく、更衣室が全日制と逆なんだよ」
「はぁ!? なんでそうなるんですか?」
「知るか! んなもん、こっちが決められる立場じゃないんだよ。だから今度からはあんまり早くに来て更衣室をのぞくなよ~?」
「のぞきませんよ!」
 
 隣りに目をやると、ミハイルは顔をまっかかにしている。
 ふむ、思春期とはわからぬものよ……。