「ラブコメと言えば、出会いは突然パンチラから。主人公がこけるとヒロインのおしりがパンツ越しに顔面騎乗。照れるヒロインを止めようとすれば、誤って手のひらがおっぱいをモミモミ……と、このように現実世界とリンクしていることが多々ありますね♪」
 よくもまあ、そんな恥ずかしい言葉をスラスラと……。
「全然リンクしてないだろ! どこのプレイだ! AVだろそれ!」
「絶対ありますって、この世のどこかで……」
 遠い目で現実逃避するな! 戻ってこい!
「お前な……俺は義務教育を九年も受けたが女子のパンチラなんて一回も見たこともない!」
「それはDOセンセイが不登校で半ひきこもりだったからでしょ?」
「今、ひきこもりの話は関係ないだろが!」
 いじめるはよくない!
「大ありですよ、人とののコミュニケーションが足りなさ過ぎて、作品に影響がきてないんですよ」
「う……」
「コミュ障、乙!」
 くそぉ、こっちばかり攻撃されて黙っている俺ではないぞ。


「ならば、白金……今度は貴様の番だ!」
「へ、私?」
「そうだ、お前のようなキモいロリババアなんぞ誰も相手にせんだろ?」
「ロ、ロリババア!?」
「ああ、そうだ。この天才が新しく考えたあだ名だ」
「ただの悪口でしょ! それに私はまだ二十代です!」
「そう、確かにお前は二十代だ。だが四捨五入すれば、晴れて三十代だよな」
「エ~、ワタチ、イミワカンナイ♪」
 今日は白目でベロだしか……。

「勝手にほざけ。世間では二十五歳を超えると『クリスマス』とかいうそうだな? 白金、お前はアラサーでありがなら未だ独身。彼氏の話なんて俺はこの数年きいたこともない。つまりお前は売れ残りのクリスマスケーキと同一だ!」
 白金の額が汗でファンデーションが落ちていく。
「DO先生、どこでその禁句を!? あなた平成生まれでしょ!?」
「フッ、最近、歌手の『チャン・オカムラ・チャン』にハマッててな。『チャン・オカムラ』のアルバムと共に時代を遡っていくとその禁句にたどり着いた」

 チャン・オカムラ・チャンとは、香港出身の日本人歌手だ。
 作詞作曲、全て自分で行い、甘い歌声にキレッキレのダンスが定評のあるスター。
 昭和時代からデビューして、現在も大ブレイク中の芸能人。
 ファンは略して、チャン・オカムラと言う愛称で呼ぶ。

「くっ! 確かに『チャン・オカムラ』の若いころはそんな概念が……。ですが、昨今は三十路で初婚が当たり前! 初産なんかアラフォーが大半ですよ!」
「お前、それは偏見だろ? お前一個人の言い分であって、婚活や恋愛にがんばる女子はお前の年で既に結婚済み、子供だって2.3人は生んでいるだろう?」
 ソースは俺!
「そ、それは、その女子がバリバリ働いてないのよ!」
 うろたえるアラサー。悲愴感ぱねぇ。
「フン、差別だな。そういう考えはセクハラ、パワハラを助長させる。今のご時世、女性差別とかいうのだろう。白金女史よ」
 はい、論破。
「くっ、正論なのがムカつく!」
 ざまあみろ、この俺をいじったのがお前の敗因だ。

「で、その女の子である白金ベイベの本日のご予定は?」
「うう……」
「どうした? さっさと言わんか?」
「きょ、今日は前から欲しかった声優の『マゴ』の写真集を自分にプレゼントします」
 ちなみに『マゴ』とはとあるアイドル声優の愛称である。
 ん? なにこのデジャブ?

「ここからが大事ですよ。デパートで大きなチキン買って、友達の家で宅配ピザを頼んで、「さんちゃんのサンタTV」見たあと、『マゴ』以外の独身声優が男子同士でクリスマスパーティしているか、巡回を……」
「……」
 見つめあうふたり。なんか共通点を感じちゃう。


「お前も俺と同じじゃねーか!」
「同じじゃありませ~ん! 友達と一緒ですぅ」
「ちょい待て、その友達が気になる。まさかとは思うがパソコン画面の『マゴ』を前にイブを祝っているわけではあるまいな?」
 俺がそうだから。
「んなわけないでしょ! 『マゴ』と『チャン・オカムラ』は私の夜の恋人……ってなにを言わすんですか!」
 いや、お前が勝手に語ったんだろが。

「リア友です」
「異性か?」
「お、女の子ですよ? 世間一般で言う女子会、女子トーク、恋バナとかで盛り上がりますね♪」
「白金が恋バナだぁ? ちょい待て。世代は?」
「二十代ですけど」
「アラサーで同い年だろ?」
「げ? なぜわかったんですか?」
「この天才にかかれば、造作もないことだ。それに恋バナなんて体のいい見せかけだ。どうせ同僚の結婚とか、愚痴と嫉妬が大半で、最後に『チャン・オカムラ』の甘い歌声で慰められて、酒に溺れて朝まで号泣だろが!」
 まあかくいう俺も『YUIKA』ちゃんのPV見ながら小説書いて、『チャン・オカムラ』の恋愛ソング聞いて号泣してるからな。

「な、なぜそれを!」
「だから言っただろ? 俺は天才だと! お前が編集として無能だから俺の作品は世にでないのだ!」
 俺が「犯人はお前だ!」的な感じで、白金を指すと「うっ!」と漏らす。
 だが、ひと時の沈黙の後、不敵な笑みを浮かべた。

「そんなこと、この超カワイイ白金ちゃんに言っていいんですか?」
「は? この世でちゃんづけは『世界のタケちゃん』と『チャン・オカムラだけでいい」
 異論は認めない、絶対にだ。
「まあ、それに異論はありませんが、これを見てでもですか?」
 白金はスマホを取り出し、ある画像を俺に見せた。

「こ、これは……」
「そうです」
「なんだおまえが変なおじさんか?」
「違うわ! さっき言ってましたよね、『聖夜の巡回』とかなんとか?」
 俺の眼に映るのはアイドル声優の『YUIKA』ちゃんだ。
 しかも白金とツーショット。クッソうらやましい。

「おまえ、これ加工しただろ?」
「んなわけないでしょ! めちゃくちゃ自然な写真でしょが! 先月、東京のイベントで会いました♪」
「マ、マジか? 生の『YUIKA』ちゃんに会ったのか?」
「ええ、いいでしょ?」
 俺も連れて行ってくださいよぉ~ 白金さん。

「なんのイベントだ? ライブか?」
「違います、我が博多社の作家さんの作品がアニメ化されることとなり、『YUIKA』ちゃんの出演が決まったのです。その制作発表会にお邪魔したとき、気軽に写真をとってくださいました。生の『YUIKA』ちゃん、可愛すぎて萌えましたぁ」
「俺だったら萌え死にだ……なんだったら転生して『YUIKA』ちゃんの犬になりたい……」
「キモッ……あ、ちなみにこのアニメ化に成功された作家さんがこちらです」
 白金が写真をスワイプさせると、その作家と思わしき輩が我が麗しの『YUIKA』ちゃんとWピースしている。
 なんてことだ、キモオタ中年が『YUIKA』ちゃんと同じ空気を吸うことすら許されぬというのに!


「ちょ、まてよ!」
「いや、似てないですよ……」
「つまりあれか? こいつはアニメ化したから『YUIKA』ちゃんとツーショットを撮れたのか?」
「まあそうなるでしょうね」
 ロリバアアは「ニシシ」と何かを企んでいる。

「だからDOセンセイも次の企画は、学園ラブコメの路線でいきましょう。いつの世の男子もウハウハなハーレム学園生活に憧れるのです。ヒットすればアニメ化の可能性もグンとあがります。そうなれば、声優の『YUIKA』ちゃんも先生のキャラに配役されるチャンスもあり、生『YUIKA』ちゃんとツーショットがゲットできるかもしれません」
 くっ! それはまたとないチャンスだ! 


「つまり、そのための高校入学。小説のために取材は必須と言いたいのか?」
「ええ、その通りです」
「だが……この年で入って見ろ? 同学年が年上という気まずい雰囲気になり、絶対クラスにとけこめない自信があるぞ!」
 そうだ。コミュ障で年上とか、どんな羞恥プレイだ。
「そう言うと思い、対策は既に盤石です」
 ピンと人差し指を立てて見せる。

「なんだ? そんな都合のいい高校がどこかにあるのか?」
「はい、私の出身校に通信制があります」
「通信制?」
 聞いたことのない言葉だ。
「はい、それならDOセンセイのようなクソメンタルでも、二週間に一回の授業とレポートさえ出せば卒業までこぎつけますよ」
 クソメンタルは余計だ。
「ふむ……」
「どうです? やります? 『YUIKA』ちゃんとのツーショットのために?」
「確かにそれは魅力的だ。だが通信制というものでは、そもそも毎日、級友と交流を重ねることはできないのでは? 入学する意味があるのか?」
 俺は中学校の頃、3年間もぼっちだったというのに、2週間に一回の出会いで仲良くなれるとは思えない。

「ええ、絶対にあります! 友達がたくさんできて、卒業生でもあるこの私が保証します♪」
 そう言って、小さな胸を叩く白金。
「それが一番、信用できんけどな」
「……」

 こうして、俺の取材兼高校入学は決まったのだった。