「誰だ、お前」
「え?」
「ここは子供の来るところじゃない。早く小学校に帰りなさい」
と俺は優しさから、少女を外へと追い出そうと背中を押す。
「ちょ、ちょっと待って!」
「うるさい、ママに言いつけますよ」
「イ、イヤー!」
俺と少女が自動ドアの前で来ると、受付のお姉さんが立ち上がった。
「あ、あの! そのちっこい人が白金です!」
「え……このガキが?」
俺は足元にいる未知の生命体を指さす。
「ガキとは失礼ですね! これでも私は成人した立派なレディーですよ♪」
そういって、自称成人ロリッ娘はウインクしてみる。
低身長で一三〇センチもないだろう。俺はこんな成人女性をこの世で見たことがない。
「お前が俺より年上だと言いたいのか?」
「ええ、そうですよ。新宮 琢人くん」
えっへんと偉そうに両腕を組む。
「じゃあ証拠を見せろ」
「え? 証拠?」
「そうだ、成人しているんだろ? もう第二次性徴は終えたのだろう? なら俺に見せてみろ」
俺がそう吐き捨てると白金は顔を赤らめて、自身の胸を両手で隠す。
「な、なにを言うんですか!? 女の子におっぱいを見せろなんて! あなたは変態さんですか!?」
「そんなことは自覚している。だが、お前の胸は貧乳とも呼べない。俺が見たい『大人の証拠』とは俗にいうおっぱいではない」
「じゃ、じゃあなんですか?」
白金が息を呑む。
「そんなもの決まっているだろうが。お前の股間。草原を見せろ」
「なっ!」
ボンッと音を立てて、顔が赤くなる。
「ほらどうした? 成人女性なら草が生えているのだろ? ちなみに俺は小学四年生の時、既にフサフサだったぞ?」
俺は自慢げに自身の股間を押し出した。
「そんなもの見せられるわけないでしょ! バカ!」
「ほう……ならやはり俺はお前をただのクソガキと認識するぞ」
白金は「ぐぬぬ」と悔しげそうにこっちを睨んでいる。
「み、見せればいいのね……」
「フン、だろうな」
「じゃあ……しかと見なさい!」
そう言って、彼女はワンピースの裾を豪快にたくし上げた。
俺の瞳に映るのは今時、小学生も履かないようなクマさんパンツ。
それを見た俺は鼻で笑う。
「やはりガキだな」
「本番はこれからよ。み、見てなさい!」
涙目でパンツに手を掛けようとしたその時だった。
「ストーップ!」
受付のお姉さんがデスクから飛び出し、俺と白金の間に入った。
「白金さん! あなたバカでしょ!?」
「だ、だって……この子が私のこと……」
「だってもクソもありません! 子供相手にむきになって……あなた大人でしょ?」
まるでダダをこねる子供を、お母さんが説教しているように見える。
ちなみに、白金の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。きったね。
「あ、あなた……私の裸が目的だったの!?」
「お前の裸なんぞに興味などない。俺は物事を白黒ハッキリさせないと気が済まない性分でな。だから、お前みたいなわけのわからん生物は正直言って……キモい」
「う……うわ~ん!!!」
泣いたぞ、これ。やっぱどう見てもガキだろ。
「ちょ、ちょっと、白金さん! 泣かないでよ、もう……」
受付のお姉さんは泣きわめく迷子を慰めるように、白金の頭をさすっている。
なにこれ、なんの喜劇?
「おい、俺はこんなバカに呼び出されたのか? 十代の貴重な青春時間だぞ? もう帰っていいか?」
そういって踵を返すと、小さな手が俺を止める。
「そ、そうはいかないんだからね、えっぐ……」
「たまごならスーパーで買え。俺の近所のスーパー『ニコニコデイ』がおすすめだ」
「そんなの、いらんもん! 私は仕事のお話がしたいの!」
「ほう、この天才の俺とクソガキが仕事の話ねぇ」
俺が笑みを浮かべると、白金は「バカー!」と言ってポカポカと殴りかかってきた。
「受付のお姉さん、らちがあきませんよ。俺、もう帰っていいですか?」
「あ、いや、ちょっと待ってね……コイツを大人しくさせるから……」
受付のお姉さんですら、『コイツ』呼ばわりか……。
しばらく待つこと数十分。
お姉さんにアメとムチで説教された白金は、瞼を大きく腫らせて戻ってきた。
「あ、あの、こちらから呼び出したのに……取り乱して申し訳ございませんでした」
「さすが、大人様だな。気持ちのいい謝罪だ」