今から遡ること四年前、俺が中学二年生の夏だ。

 正直、オンライン小説は趣味の一つであり、ライフワークにすぎない。

 もちろん根強いファンがついてくれたことは感謝の極みだ。
 だが、出版となると抵抗があった。
 その理由は金だ。

 金が関わると色々と面倒だ。
 趣味の範囲内なら何も考えず、自分の書きたいものだけ書けばいい。
 正直、それが楽しかったのに、編集にいろいろと口を挟まれるのは俺の美学に反する。
 それでも俺の自宅には毎日電話がかかってきた。


『もしもし、先日もお電話しました。博多社の白金と申します』
「興味ない」
『え?』
 ブチッ!

 次の日……。

『あの! 博多社の……』
「死ね」
 ブチッ!

 また次の日……。
『あのぉ、白金ですけどぉ……』
「コノ、デンワバンゴウワ、ゲンザイ、ツカワレテオリマセン……」
『いや! ごまかされませんよ!』
 ブチッ!


 それが連日だ。ストーキング行為はやめてもらいたいものだな。
 だが、ある日、タイミング悪くして母さんが電話に出てしまった。

「あ、はい? 出版社の方ですか? え、うちのタクくんがですか? まあまあ……」
 母さんの眼鏡からは、輝きを感じる。
「ではお日にちはどうします? はい、はい……。わかりました、タクくんに伝えておきます」
 受話器を切ると共に、母さんの眼鏡が輝きを増していく。
「タクくん、今日はお赤飯を炊きましょうね♪」
「いや、俺は女の子ではないぞ」

 そう。周りの大人たちの思惑で勝手に作家デビューしたにすぎないのだ。
 不本意ながら……。