第二種目の騎馬戦は俺抜きで、勝利してしまった……。
スコアボードを見ると、我が一ツ橋がリードしていることが確認できた。
白組の三ツ橋が13点、対して紅組の一ツ橋は15点。
どうやらヤンキーたちが、かなり頑張ってくれているようだ。
それもそのはず、なんたってMVPには一年分の単位贈呈だからな。
反則すれすれの行為もいとわない。
時には殴ったり蹴ったりして、勝利を手にする。
極悪非道な生徒たちだもの、相手選手がかわいそうに思える。
その甲斐もあってか、真面目な三ツ橋の生徒たちは騎馬戦でかなり脱落していた。
「おお、この調子なら勝てるかもな……」
「うん☆ 正義は勝つもんな☆」
屈託のない笑顔で拳を握るミハイル。
いや、悪は絶対こっち側だと思う。
三ツ橋の学生が、いたたまれない。
宗像先生がマイクを握る。
「えー、次はまたペア種目だ」
またかよ。
バトルロワイヤル形式はどうなったんだ?
基本、個人プレイだろ。
「第三の種目は題して、『地獄の頭かち割っちゃうよ、逆立ちロワイヤル』だ!』
まーたアホな名前つけやがって。
いちいち死を連想させるような名称にすんな。
残った生徒たちは、互いの高校合わせて半々ぐらい。
この試合に勝てば、団体戦では一ツ橋が自ずと勝利するだろう。
今回もヤンキーたちが、暴力行為を働くのは間違いない。
まさか、これらを見越しての賭け試合なのでは?
そんな考えにふけっていると、誰かが袖を引っ張る。
「タクト! また二人で組もうぜ☆」
振り返ると、何やら嬉しそうな天然の金髪ヤンキー少年が。
てか、運動会始まってから、ずっとこいつと一緒にペア組んでるよな。
ま、いいけど。
「ああ、そうだな…」
断ると殴られそうだから。脅迫に近いよね。
「頑張ろうぜ!」
「お、おお……」
超やる気ゼロ。
各自ペアを組んで、グラウンドに集合した。
俺とミハイル。花鶴と千鳥。それから先ほどの騎馬戦で暴力行為が目立ったヤンキーたちが数組。
「ほぼヤンキー組が勝ち残ったか……そりゃそうだよな」
よく見ると、一ツ橋の真面目な生徒は俺だけじゃないか。
ため息をついて、その光景に呆れる。
すると、誰かが声をかけてきた。
「琢人くん! 良かった。私たち勝ってるね♪」
振り返ると、そこにはパツパツの体操服を着た巨乳眼鏡が。
北神 ほのか。
こんな奴が勝ち残っているとは、同じ真面目組として屈辱だ。
「ほのか、お前もか」
「あったり前じゃん! 『なんでも一つだけ叶えちゃう権』でこの高校をBL本まみれにするまで私は……死ねない!」
いや、お前は一度、頭かち割って死んで来い。
そんな18禁を、高等学校に入れるわけにはいかん。
「そ、そうか……ところで、ほのか。お前ペア組む相手いないじゃないか?」
ほのかは一人で立っている。
連れの姿が見えない。
「それなら、大丈夫! すごい人と組んだから♪」
胸を張って偉ぶる。
「誰だ?」
俺がそう言った瞬間だった。
「アタシよ!」
キンキン声が耳の中に鳴り響く。
うるせぇ。
誰かと思って、辺りを見渡す。
砂埃が舞う中、一人の少女がこちらへとゆっくり向かってくる。
前髪パッツンで揃えた、日本人形のような長い黒髪を揺らせて歩く。
美人の部類なのだろうが、それよりも表情がきつい。
誰だっけ?
「このアタシ、芸能人の長浜 あすかが来たからには安心しなさい!」
あ、そうだ。
自称、芸能人の痛い子だ。
「ああ……」
俺はすごくどうでもいいと言う顔で、反応した。
「ちょっと! ああってなによ! あなた、この前アタシの握手会に来たでしょうが!」
「いや、あれはたまたまだろ?」
「キーッ! アタシのガチオタのくせして!」
違います、事実を湾曲しないで下さい。
「つまり、ほのかは長浜と組むのか?」
「ええ。トップアイドルのあすかちゃんがいるなら百人力よ!」
一人の力にも満たないと思われます。
「そうよ! こう見えてアタシは中学校で体育の成績いいんだから」
「へぇ~」
どこまで本当の話なんだか。
「ちょっとぉ! 疑う気なの!? なんならググりなさいよ!」
だから、なんでもググって個人情報出たら怖いだろ。
あなたはほぼ素人レベルの認知度なんだから。
※
相手側の選手は……。
水泳部から姫と王子ペアの赤坂と福間、それに生徒会長の石頭くんとおかっぱの女子、吹奏楽部の女子生徒が二人。
かなり人数、減らされたな。
もうこっちの勝ちでいいんじゃないか?
「では、皆の者! 準備はいいかぁ!?」
よくねーよ、なんで毎回、説明を受けるんだよ。
事前に情報をちゃんとくれや。
勝てるもんも勝てないぜ。
「本種目は持久戦だ。一人が逆立ちをして、相方が両足を持ち支えろ! 力尽きたら脱落だ! 残った二組が決勝へといける!」
なるほど、やっとアホみたいな運動会ともおさらばか。
さっさと勝って終わっちまおう。
だが、残念ながら俺は体力に自信がない。
自然とミハイルが、逆立ちすることになった。
俺は彼の細い脚を持てばいいだけなのだから、こりゃ楽だ。
「よーい……はじめいっ!」
宗像先生の掛け声と共に、一斉に皆、逆立ちを始めた。
支え手はほぼ、男子。
やはり体重が軽い方が、逆立ちを選ぶようだ。
「うん……しょっ!」
ミハイルが俺に向かって両脚を放り投げる。
それを上手くキャッチした。
彼の白く透き通った美しい素肌を拝めた。
しばらくすると、ミハイルの身体がふらつく。
「んん……けっこう、キツッ……ああっん!」
変な声を出すんじゃない!
なんだか別の意味でドキドキしてきた。
ふと隣りの奴らを見る。
花鶴と千鳥コンビだ。
だが、彼らにはどこか違和感を感じる。
それもそのはず。
逆立ちしているのが、男の千鳥。
その太くてゴツい足を、女の花鶴が細い手で軽々と支える。
「ふお~ 頭に血がのぼっちまうぜぇ~」
ホントだ。つるっぱげが、ゆでダコになってる。
「ハハハッ! 頑張るっしょ、ハゲ野郎」
花鶴は時折、片手だけで支え、反対の手で脇をかいている。
なんて酷い扱いだ。
そのまた隣りを見れば、異様な光景が……。
アイドルの長浜 あすかが支え手になり、北神 ほのかが逆立ちしている。
そこまでは普通なのだが。
ミハイルや千鳥が苦戦しているなか、ほのかは平然としている。
むしろ、どこか楽しそうだ。
「うへへっ……あすかちゃんのブルマがタダ見できるなんてぇ……」
彼女は顔を赤くすることはない。が、鼻から大量の血を吹き出している。
「うーん、まだなの~ アタシは芸能人なんだから、こんな力仕事向いてないのよ!」
支えている長浜の方が辛そうだ。
目を閉じて、必死にもがいている。
「ハァハァ……」
相方のほのかと言えば、逆立ちしながら、長浜 あすかのブルマを下からのぞいていた。
変態だ。
~それから10分後~
次第に、みんな力尽きていく。
隣りの千鳥は花鶴が飽きて、両手を離してしまい棄権。
変態行為に走った北神 ほのかが大量出血で、退場。
他のヤンキー達も持久戦には弱いようで、お得意の暴力で相手をねじ伏せるわけにもいかないから、早いうちに脱落してしまった。
今回の試合の方が、全日制コースの三ツ橋に分があるようだ。
瞬発力に長けたヤンキーたちよりも、日頃から部活で鍛えている真面目な子たちの方が体力がある。
気がつけば、一ツ橋のペアは俺とミハイルのみだ。
相手側は水泳部コンビと、生徒会の二組。
「ただいま、15分経過~」
宗像先生は非情にも生徒たちの顔が真っ赤になっても、一向に辞める気配がない。
ずっと時間を測っているのみ。
「負けないわ! 絶対にMVPとって、新宮センパイと新聞デートするんだからぁ!」
と叫ぶのは赤坂 ひなた。
だから、バイトしたいなら面接にいけよ。
それを屈強な身体で支えるのが、福間 相馬。
「頑張れよ、赤坂ぁ……ふぅふぅ…」
何やら息遣いが荒い。
よく見ると、上からひなたのお股を直視している。
どこもかしこも、変態ばかりだな。
そのお隣りは三ツ橋の代表でもある石頭 留太郎くん。
彼は目をつぶって微動だにしない。
おかっぱの女子に両脚を持ち上げられ、空中で浮かんでいる。
そう、彼は両手を地面につけず、合掌しているのだ。
「南無阿弥陀仏……」
即身仏にでもなる気ですか?
ミハイルのことが気になって、声をかける。
「大丈夫か、ミハイル? もう負けてもいいぞ」
「絶対にイヤだ~! オレもMVP欲しいもん!」
お前まであんなアホな願いを信じているのか。やめとけ。
その時だった。ミハイルの声が裏返る。
「ヒャッ!」
何やら異変が起きたらしい。
「どうした? キツいのか?」
「ち、ちがう……何かが、ああんっ!」
妙に色っぽい声で喘ぐ。
それを聞いて、俺は心臓がバクバクする。
「一体どうしたんだ?」
ふと下を見てみる。
目に入ったのは、紺色のブルマ。
そして、生まれて初めて見た女の子のお股……じゃなかった、男の股間。
俺が両足を広げているため、見放題だ。
なんてことだ。
絶景、絶景。
スマホがあれば、この至近距離で写真を撮って永久保存しておきたいぐらいだ。
だが、そんなことも言ってられない。
なぜならば、ミハイルの美しい太ももに、ちょこちょこと動き回る黒い物体が見えたからだ。
クモだ。
「ひ、ひゃん! くすぐったいよ! 倒れちゃう~!」
ミハイルは予想しなかった来客に、己の身体をくねくねと動かして悶絶する。
「タクトォ……虫、取ってぇ!」
ええ!?
「い、いいのか? 俺が触っても?」
なんだか背徳感が。
「早くしてよぉ! あぁん、倒れちゃう~」
まったくいやらしい声で喘ぎやがって!
俺は言われた通り、右手でミハイルの太ももに手を伸ばす。
クモは意外と素早く、ササッと下へ下へと降りていく。
ヤバッと思ったころにはもう遅かった。
ちょこちょこと動き回った後、たどり着いたのはお山のてっぺん。
つまり、ミハイルのもっこりはんだ。
「うう……」
同性とはいえ、さすがに『ここ』に触れるのは躊躇する。
「タクト、早く! 負けちゃう~よぉ」
「ええい! 我慢しろよ!」
勢いよく、平手で少し膨らんだブルマを叩く。
「あぁん!」
「……」
クモは地面に落ちると、スタコラサッサーと逃げていった。
「ハァハァ……ありがと。タクト……」
こちらこそ、なんかありがとうございました。