辺りは静まり帰っていた。
一ツ橋の生徒たちは授業を受けに来たのに、なぜか全日制コースの三ツ橋生徒たちがいた。
イスを半円形に並べて、各々が楽器を持ち、教師の指示を待つ。
「なあタクト、なにがはじまるの?」
ミハイルが不思議そうにたずねる。
「俺にもわからん」
すると、教師がなにを思ったのか、服を脱ぎだす。
「うげっ」
ワイシャツを脱ぎ、床に放り投げる。
体つきはいい方だが、かなりの剛毛。
中年なので仕方ないが、たるみきった腹なんぞ見たくない。
そこで終わるかと思いきや、教師はズボンのベルトにまで手をかけた。
「な、なにやってんすか!?」
顔を赤くして立ち上がるミハイル。
「ん? ああ、君たちは私の授業は初めてだね? 私は裸にならないと上手く指導ができないんだ」
教師はニカッと笑うと謎の言い訳でミハイルを諭す。
「し、しどう?」
ミハイルはバカだが、困惑するのも無理はない。
かく言う俺も脳内が大パニックだ。
「パンツは履いているから問題ないよ」
優しく微笑むと教師はズボンを豪快に脱ぎすてる。
そこにあったのは黄金。
ゴールデンブーメランパンツ。
しかも尻がTバック気味。
しんどっ!
「では、一ツ橋、三ツ橋合同授業を始めます!」
そんな格好つけてもどうしても尻が気になる。
一ツ橋の生徒たちは何人かクスクスと笑っている。
ミハイルは顔面真っ青で吐きそうな顔をしていた。
かわいそうに。
花鶴 ここあはおっさんの生ケツを見て、指差してゲラゲラ笑う。
「ヤベッ、ちょーウケる」
あかん、俺も笑いそうになってきた。
北神 ほのかと言えば、なぜかスマホで教師の後ろ姿をパシャパシャ撮っていた。
「ほのか、何してんだ?」
「え? 同人のネタに使いそうでしょ? リアルでキモいし」
「ああ……取材ね」
確かに変態女先生には逸材です。
ここで一つ気がついた。
音楽を専攻しているのは皆、女子ばかりであった。
男と言えば、俺とミハイルぐらい。
セクハラじゃないですか? この授業。
だが、俺たちと違い、三ツ橋の生徒たちは教師がパンツ一丁になっても至って真面目な顔でいる。
真剣そのものだ。
「じゃ、はじめるぞ! お前ら、覚悟はできているかぁ!?」
熱血教師だな、変態だけど。
「「「はい!」」」
すると凄まじい爆音が狭い教室に響き渡る。
オーケストラがやる場所ではない。
反響音が半端なくて、俺たちは耳を塞ぐ。
「うるせぇ……」
だが、三ツ橋の生徒たちは気にせず、練習を続ける。
指揮者の教師は汗をかきながら、タクトをぶんぶん振り回す。
その度に、中年の尻に食い込んだTバックが踊り出す。
この音楽の授業としては三ツ橋の吹奏楽部の練習を見せることで、俺たちに単位を与えたいようだ。
つまり、見るべき対象は演奏する生徒たちなのだろうが、それよりもとにかく教師のケツが気になってしかたない。
さっきから激しく左右に腰をふるもんだから……。
誘っているんですかね? ノンケなのでお断りです。
授業と称しているが、これはゲイのストリップショーのようだ。
「ストーーーップ!」
急に教師が演奏を止める。
そして、数人の生徒の名前を呼ぶ。
「おい、お前ら! ちゃんと練習したのか!?」
ものすごい気迫だ。
まあ後ろから見ている俺からしたら、コントのようだが。
「あ、一応してきました……」
ビビるJK。
なんだろう、吹奏楽部じゃなかったら事案もの、いや事件レベルの場面ですよね。
「一応だと、この野郎! お前、そんな根性で全国コンクール目指す気か!?」
至極真っ当な答えなのだが、裸の指揮者の方がコンクール向きではない。
異常者だ。
「す、すみません!」
「いいか? お前、3年生は今年が最後なんだぞ! そんな気持ちなら出てけ!」
すごく熱意は感じる。だが、その前にあんたの方こそ、3年生を想うなら服を着ろ。
「嫌です、私も先輩たちとコンクール目指します!」
涙目で訴える女子高生。
「よし、その意気だ! しっかり来週まで仕上げてこいよ、絶対だからな!」
「はい、先生!」
青春だなぁ……一人の教師を除いて。
そんなやり取りが延々と、2時間も続いた。
熱血教師は度々、三ツ橋の生徒たちに激を飛ばし、演奏を繰り返す。
何とも言えない緊張感がある反面、一ツ橋の俺たちは笑いを堪えるのに必死だった。
花鶴は腹を抱えてゲラゲラ笑い、足をバタバタさせて、スカートの裾が上がっていた。
ので、パンツが丸見え。
数人の三ツ橋男子が演奏しながら花鶴のパンティーに気を取られて、教師に注意される。
まあ中年の黄金パンツより、ギャルのパンツの方がいいよな、知らんけど。
終業のチャイムが鳴ると、音楽の先生は汗でびっしょりだった。
息も荒く、はあはあ言いながら「今日はここまで!」と閉めに入る。
振り返って俺たちを見ると、ニッコリ笑った。
「はい、一ツ橋のみんなもお疲れ様。出席カードはイスに置いといてね」
なんでか俺たちには優しいんだよな、変態だけど。
地獄のような授業を終え、各自廊下に出る。
「いやあ、カオスだったな」
「オレ、気持ち悪い……」
口に手を当てるミハイル。
男の裸に免疫ないもんな、アンナちゃん。
清純だし。
「大丈夫か? 選択科目は習字にしたらどうだ?」
「う、うん……考えてみるよ」
かなり参っている。かわいそうに。
「あーしは超おもしろかった! 音楽にしよっと」
何かを思い出しようでまだゲラゲラ笑う花鶴。
まあ俺もけっこうあのケツがおもしろかった。
「私も絶対、音楽にする! あんなきっしょいおっさんは中々いないもんね」
授業中にもかかわらず、北神 ほのかは連写しまくっていたらしい。
持っているスマホの画面をチラッと横から見ると、教師の裸体ばかり。
肖像権とか大丈夫ですかね。
「オタッキーとミーシャはどうするん?」
「ふむ、習字を専攻した千鳥や日田兄弟の感想を聞いてから決めるかな……」
「オレも……」
階段を降りていくと、ちょうど千鳥と日田兄弟と出会った。
3人共、なぜか肩を落とし、元気なく歩いていた。
それもそのはず、顔に何やら黒く墨が塗られていた。
千鳥は「バカ」「ハゲ」「田舎者」
日田の兄、真一は「力量不足」「どっちかわからん」「真面目系クズ」
弟の真二は「メガネ」「ゲーオタ」「ドルオタ」
ひどい……ただの悪口ばかりだ。
「お前ら、どうしたんだ? その顔」
すると千鳥が答えてくれた。
「やべーよ、習字のじじいのやつ。ちょっと間違えただけで、顔に落書きしやがるんだ」
「ですな、酷い授業でした」
「ドルオタは悪くないでござる!」
まあね。
音楽も習字もどちらも酷い科目のようだ。
だが、必須科目であり、どちらかを受けないと卒業できない。
「タクオは音楽どうだった? 俺たちも音楽にすりゃーよかったかな……」
スキンヘッドをぼりぼりとかく千鳥。
「いや、やめておいた方がいい。音楽は音楽で相当カオスだぞ? 中年の生ケツを2時間も拝むんだから」
「ええ……マジ?」
かなりショックだったようだ。
どちらかというと「まだ俺たちの習字のほうがマシだ」とでも言いたげだ。
「俺、習字にするわ」
「拙者も」
「某も」
マジかよ……どうしよっかな。
「はあ、めんどくさいし、俺は音楽にするかな」
毎回、顔を汚されるのも癪だ。
それに比べたら2時間何もせず、ケツを見ているのも一興だろう。
「ええ、タクト。もう決めちゃうの?」
顔面ブルースクリーンで震えるミハイル。
「ああ、ミハイルは習字にしたらどうだ」
「ううん……タクトと一緒じゃなきゃ……」
言いながら目が死んでますよ。
結局、みんな最初に試した科目を選んでいる生徒が多かった。
本当に卒業に必須な授業なんすかね?
俺たちは各選択科目の授業(地獄)を終えて、教室に戻った。
みんなクタクタのようで、机の上に頭を乗せる。
「疲れたぁ……」
右隣を見れば、ミハイルが妊娠初期に見られるようなマタニティーブルーを発症していた。
まあ2時間も中年オヤジの生ケツを拝んでいたんだ。
俺でさえ、思い出すだけで吐き気を感じる。
そこへ、教室の扉がガンッ! と勢いよく開く。
「よぉーし、みんな最後まで授業受けられたな! いい子いい子」
満足に笑う痴女教師、宗像 蘭(独身、アラサー)
褒められているんだろうが、けなされているようにも感じるのは疲れたからでしょうか?
「さあレポートを返却するぞぉ~」
そもそもレポートって返却する必要あんのかな?
いらねーし、邪魔だし捨てたい。
「一番、新宮!」
「はぁい」
弱弱しい声で返事すると、またいつもの如くキレる宗像。
「なんだ!? その覇気のない声は腹から声を出せ!」
うるせぇ、俺はさっきまで尻から声を出していた音楽教師を見ていて、吐きそうなんだよ!
「はぁい……」
「なんだ? 本当に元気ないな。よし尻を叩いてやろう」
宣告通り、10代男子のケツをブッ叩くセクハラ教師。
「いって!」
返却されたレポートはいつも通りの満点オールA。
「2番、古賀!」
「は、はい……」
ミハイルは本当に先ほどの音楽が辛かったようでPTSDを発症している。
今にも吐きそうな顔色だった。
「なんだ? 古賀まで元気ないな……よし尻を叩いてやろう」
お前はただの尻フェチだろ!
俺にしたように思いきりケツをブッ叩く宗像先生。
「キャッ!」
相変わらず、可愛い声だ。
桃のような小尻をさすりながらトボトボ戻ってくる。
「ミハイル、今回は成績どうだった?」
「あ、えっと……少し上がってた」
頬を赤く染める金髪少年。
「ほう、Dか?」
下から2番目てことです。
「ううん、BとかC……」
「なん……だと!?」
あのおバカなミハイルちゃんが成績アップとか、お母さん泣いちゃう。
「あ、アンナのやつがさ、勉強しないとダメだって言うからさ……」
それ多重人格じゃないですか?
お友達少ないんですね。
「ほう、アンナがミハイルに勉強を薦めたと?」
「うん、タクトと一緒に卒業したいし……」
チラチラと俺の顔色を伺う。
「頑張ったな、ミハイル。これからもその調子だ」
「うん! 頑張る☆」
入学したときより、随分丸くなったわね。ヤンキーのくせして。
そうこうしているうちにレポートは生徒全員に返却し終わっていた。
やっとスクーリングが終わると思うとみんな安堵のため息が漏れる。
「さ、帰るか」
「うん☆ 一緒に帰ろうぜ、タクト☆」
俺とミハイルが立ち上がろうとしたその瞬間だった。
バーン! という衝撃音が教室中に響き渡る。
「な~にをやっとるか! 新宮、古賀!」
鬼の形相で黒板を叩いていたのは宗像先生。
「え? もう帰っていいでしょ?」
「バカモン! 朝のホームルームで放課後はパーティをすると言っただろうがっ!」
そげん怒らんでもよかばい。
「パーティ?」
「そうだ、一ツ橋の生徒たちは今から三ツ橋のグラウンドに集合だ! 帰ろうとしたやつは今日の出席をノーカンとする!」
パワハラだ。
俺たちは宗像先生の圧(脅し)のせいで、授業を終えたのに三ツ橋高校のグラウンドに向かった。
グラウンドには野球部や陸上部、サッカー部の生徒たちが練習している。
そのど真ん中にテントが二つ組み立てられていた。
テントには『三ツ橋高校』と書いてある。
先客がいた。
一ツ橋高校の若い男性教師たちが2人ほど。
テントの中でバーベキューを始めている。
「あ、おつかれさま。どこでも好きに座っていいよ」
汗だくになりながら、肉と野菜を包丁で切り分けている。
「は、はぁ……宗像先生にパーティだって聞いたんすけど」
「ああ、新入生の歓迎会だよ」
酷い歓迎会だぜ…。
だって、全日制コースの連中が汗だくになりながら、部活やっているなかで俺たちはパーティとか、居心地が悪いったらありゃしない。
そこへバカでかいクーラーボックスを4つも抱えた宗像先生が現れる。
サングラス姿で、海でナンパ待ちするヤ●マン女みたい。
「うーし、好きなの飲めよ!」
ドカンと地面にクーラーボックスを落とすと、蓋をあける。
中にはたくさんの氷と缶が。
しかし、全て酒ばかり……。
飲めるか!
と、俺が躊躇していると、ヤンキーやリア充集団が我も我もと群がってくる。
キンキンに冷えたビールを手に取る。
おいおい、こいつら未成年じゃないのか?
「宗像先生、さすがに酒はダメなんじゃ……」
俺が声をかけているが時既に遅し。
宗像先生はゴクゴクとハイボールを喉に流し込んでいた。
「プヘーーーッ! うまいな、仕事あがりの一杯は!」
人の話を聞けよ、バカヤロー!
だいたい、お前はまだ仕事中だろうが。
「先生、話聞いてます?」
「あ、新宮。どうした? お前も飲めよ」
だから未成年だってんだろ!
「いや法律は守りましょうよ」
「なにを言っているんだ、お前は? 周りをよく見ろ、みんな飲んでいるだろうが?」
まるで俺が間違っているような言いぐさだ。
だが、宗像先生の言う通り周りの生徒たちは皆、ビールを飲み始めている。
ハゲの千鳥なんかは焼酎を嗜んでらっしゃる。
「かぁー、やっぱ焼酎は芋だわ~」
既にアル中じゃねーか。
異常だ、イカれてやがるぜ、この高校。
その証拠に部活動に励んでいた三ツ橋高校の生徒たちは練習を止めて、こちらに釘付けだ。
「さ、新宮も飲め!」
ビールを差し出すバカ教師。
「飲めませんて! 俺は未成年ですよ?」
「あぁ!? たっく、ノリの悪いやつだ……」
タバコも飲酒もOKな高校とかどうなっているんですか?
「仕方ない、酒の飲めないやつは近くの自動販売機でジュースでも買ってこい」
未成年たくさんいるのに酒しか用意してないとか、バカだろう。
「ええ……」
「文句言うな! 金なら払ってやる!」
「それならいいっすけど……」
当然、俺は酒を飲まないし飲めないので、グラウンドから出て自動販売機に向かう。
俺以外にもけっこうというか、かなりの人数で飲み物を買いに行く。
よかった、俺だけがまともな生徒かと思っていたから……。
見れば、ヤンキーやリア充グループを除く陰キャメンバーばかりだった。
北神 ほのかや日田兄弟などの真面目なメンツ。
「待ってよ、タクト!」
慌てて俺の元へと走るミハイル。
「どうした? お前は酒を飲まないのか?」
タバコも吸っていたんだから、飲めるのかと思ってたいたが。
「え? オレは酒飲まないよ? ねーちゃんがお酒は二十歳になってからって言ってたし……」
じゃあタバコも教育しとけよ、あのバカ姉貴。
「そ、そうか。なら一緒に買いに行くか?」
「うん、オレはいちごミルクがいいな☆」
相変わらず可愛いご趣味で。
「タクトはいつものブラックコーヒーだろ☆」
「まあな」
自販機につくと軽く行列ができていた。
無能な教師のせいでパシリにされる生徒たち。
大半が一ツ橋の陰キャどもだが。
俺とミハイルが駄弁っているとそこへ一人の少女が声をかけてきた。
「あ、新宮センパイ! こんなところでなにをしているんですか?」
振り返ると体操服にブルマ姿のJKが。
小麦色に焼けた細い太ももが拝めるオプション付きだ。
「ん? お前は……」
「あ、また忘れてたでしょ!?」
ボーイッシュなショートカットに活発な少女。
そうだ、三ツ橋高校の赤坂 ひなただ。
「おお、ひなただろ? 忘れてないよ」
「もう! ところで一ツ橋高校は何かイベントですか?」
「歓迎会だそうだ、今からみんなでパーティだと」
「へぇ……いいなぁ」
いや、ただの酒好きな教師の自己満足だから、期待しないで。
「一ツ橋のパーティなんだから、ひなたは入れないぞ☆」
何やら嬉しそうに語るよな、ミハイルくん。
「はぁ? 三ツ橋だって関係者でしょ? 私、一ツ橋の先生に直訴してきます!」
やめろ! あんな無責任教師に一般生徒を巻き込みたくない。
赤坂 ひなたは顔を真っ赤にしてズカズカとグラウンドの方へ向かっていた。
忙しいヤツだ。
俺たち真面目組がジュースを買ってグラウンドに戻ると、パーティ会場はかなり盛り上げっていた。
そして、周りで部活している三ツ橋高校の生徒たちは口を開いたまま、中央のテントに目が釘付けだ。
悪目立ちしている。
なんか真面目に青春されているのに申し訳ないです。
うちのバカ教師のせいで。
テントに入ると先ほど話していた制服組の赤坂 ひなたが宗像先生と何やら話している。
「あの、私。三ツ橋の生徒なんですけど、途中参加してもいいですか?」
「え、別に構わんぞ? だって今日のパーティは全部経費で落ちるし」
「良かったぁ」
おいおい、経費ってどこから出てるんですか?
まさか俺たちの学費から落ちてるんじゃないのか。
だとしたら、三ツ橋の生徒に奢ってやるどおりはない。
「ちょっと待ってよ、宗像センセー! ひなたは一ツ橋の生徒じゃないっすよ!」
もっと言ってやって、ミハイルくん。
「はぁ? 別にどうだっていいだろ。人が多ければその分、酒はうまい!」
と言ってハイボールを一気飲みする宗像先生。
すっかりリラックスしていて、アウトドアチェアに腰を深く落とし、地面には既に10缶も転がっていた。
「でも……」
唇をとんがらせるミハイル。
「まあ固いこと言うな、古賀。お前はほれ、そこのシートに新宮と座れ」
「え……タクトと一緒に?」
なぜか頬を赤く染める。
「だってお前らいつも一緒じゃないか? 仲良しなんだろ?」
言いながらスルメを咥える。
「ですよね! オレたち、ダチなんで☆」
ただのダチではないけどね。
「だろ? ほれ、早くみんな座ってバーベキューを始めるぞ!」
俺たちは宗像先生に指示された通り、広げられた大きなブルーシートに腰を下ろす。
既に酒を飲んでいた不真面目組はギャーギャー言いながらはしゃいでいる。
シートの隣りでは若い男性教師が汗だくになりながら、バーベキューコンロで肉を焼いている。
責任者である宗像教師は一人、酒を楽しんでいる。
この男性教師たちは宗像先生に弱みでも握られているのだろうか?
「さあ焼けたよ~」
焼き係の教師が、こんがり焼けた肉を紙皿に移して皆に配る。
俺の元へたどり着いたが、焼き肉用の肉にしてはどこか違和感を覚える。
「なんかこの肉、小さくないか?」
近くいた北神 ほのかにたずねる。
「確かに焼き肉用にしては小さく切ってあるよね」
そこへ料理上手なミハイルさんが解説を始める。
「きっとこれは焼き肉用のカルビじゃなくて、こま切れ肉だな☆」
頼んでもない説明をどうもありがとう。
おかげでメシが不味くなりました。
「まあただでさえ三ツ橋より、生徒の人数も少ないから金がないんだろな」
俺がそう言うと、宗像先生がイスから立ち上がった。
「新宮! 失礼なことを言うな! 今回の焼き肉は三ツ橋高校から提供してもらっているんだぞ!」
「え? つまり、三ツ橋高校の校長先生が俺たちのために?」
「バカモン! 私が昨日の晩に三ツ橋高校の食堂からかっぱらってきたに決まってんだろが!」
犯罪じゃねーか。
「じゃ、経費で何を使ったんですか?」
「全部、酒とつまみだ」
宗像先生はテントの奥からスーパーのビニール袋をたくさん持ってきた。
ブルーシートにつまみをぶちまける。
と言ってもほとんどが豆だの干物とか、缶詰、キムチ、たくわん……。
上級者向けのおやつですね。
こんなもんに俺たちの学費は使われたのか……。
退学をそろそろ申請したい。
「ま、良くないですか?」
そう声を上げたのはブルマ姿の赤坂 ひなた。
ちゃっかり、俺の左隣に座っている。
しれっと太ももが俺の足にピッタリくっついて、思わずドキっとしてしまう。
「良くないだろ? 三ツ橋の食堂から食材を無断で使うとか。宗像先生、懲戒免職処分食らうんじゃないか?」
現実になったらいいのにな~
「大丈夫ですよ、うちの校長先生ってけっこう心広いですし」
神対応で草。
「そうだぞ、新宮! 滅多なことを言うんじゃない! だから黙って食え!」
お前の職に関わることだから、必死になっているんだろうが。
「ですが、宗像先生。さすがに酒はまずくないですか? 一ツ橋の生徒たちは未成年も多いでしょ?」
「ああん?」
顔をしかめて、俺の目の前にドシン! と座ってあぐらをかく。
「いいか、新宮。大半の生徒たちは既に職についている学生が多い。よって学費は自腹だ。お前もその一人だろ?」
「まあ、そうですけど」
「なら未成年だろうと喫煙や飲酒は私たち教師では止められない」
それ重症の中毒患者ですよ。
アル中病棟、紹介しましょうか?
「それは人によりけりでしょ?」
「確かに新宮のようなぼっちで根暗な仕事をしているやつじゃ、わからんだろうな」
頭を抱える宗像教師。
というか、新聞配達をディスするな!
店長に謝れ!
夜中に一回、配ってみろ! 誰もいない住宅街は超怖いんだぞ、暗くて。
「そんな俺だけが珍しいみたいな言い方……」
「あのな、新宮。わかってやれよ、あいつらのことも」
そう言うと、既に顔を赤くして出来上がっている不真面目組を指差す。
千鳥 力に至っては裸踊りを始めていた。
マッチョでいいケツしてんなー ってその気がある方なら嬉しいでしょうね。
隣りでギャルの花鶴 ここあはテントを支えているパイプを使ってポールダンスを始めていた。
パンツ丸見えで周りのヤンキーたちがヒューヒュー口笛をならす。
無法地帯。半グレ集団の集まりじゃないですか?
「アレのことですか?」
俺は呆れながら、答えた。
「そうだ、あんなバカな奴らだって苦労してんだよ。毎日重労働して、たまに勉強してだな……」
今、たまに言ったよね? 毎日しろよ。
「だからな、仕事していたら、成人の先輩や上司、同僚と飲んだりする機会も増えるわけだ」
「つまり付き合いで飲んでいると?」
ブラック企業じゃないですか。そこは社内で厳しくしましょうよ。
「ま、そんなとこだ。だから、未成年であろうと奴らは必死に毎日働いて自分の金でメシを食っているやつらだぞ? 立派な社会人だろう」
宗像先生の言いたいことは衣食住を全て自分で払っているので、大人として認識しろと言う事なのだろう。
「なるほど……」
「だいたい、お前も大学とか言ってみろ。18歳で普通にコンパで酒飲ませられるぞ?」
「え、そうなんですか?」
「そうだぞ、先輩の言うことを聞かないとハブられるしな」
うわぁ、大学に行かないようにしよっと。
「タクト、二十歳になったら一緒にお酒飲もうぜ☆」
ミハイルが言う。
「は? 俺は別に酒を飲みたいわけじゃないぞ?」
「え、同い年の力やここあが飲んでいるから、うらやましいんじゃないの?」
一緒にするな、あんな奴らと。
「いいや、俺は物事を白黒ハッキリさせないとダメな性分だと言っただろ。だからああいうのは嫌いなんだよ」
「じゃ、アンナが大人になったら……一緒に飲んでくれないの?」
瞳を潤わせて、上目遣いで見つめる。
「まあアンナが二十歳になるまで待つよ。2歳下だしな」
「そ、そっか……同級生だから年の差、忘れてたや☆」
おいおい、今度はブルーシートがお友達に追加されたぞ。
顔を赤くしてモジモジしながら、ウインナーを咥える。
「あむっ、んぐっんぐっ……ハァハァ、おいし☆」
わざとやってない? そのいやらしいASMR。
「さっきから聞いてりゃ、男同士でなにやってんのよ!」
振り返ると顔を真っ赤にしてこちらを睨む北神 ほのかがいた。
「ど、どうした? ほのか」
「うるせぇ! さっさと絡めってんだよ、バカヤロー!」
「バ、バカヤロー?」
一体どうしたんだ、ほのかのやつ。
「そうっすよ、センパイ! アンナとか言うチートハーフ女、どこにいるんすか? ぶっ飛ばしてやるよ、コノヤロー!」
先ほどまで静かにジュースを飲んでいた赤坂 ひなたまで顔が真っ赤だ。
「コ、コノヤロー?」
こいつらどうしたんだ?
俺に詰め寄るほのかとひなた。
気がつけば、二人に抱きしめられていた。
わぁーい、おっぱいとおっぱいがほっぺに当たって気持ちいいな~
とか思うか、バカヤロー!
「うーん、琢人くん~ 尊いやつめ」
「らめらめ! センパイは私の取材相手なんだから!」
俺の耳元でギャーギャー騒ぐメスが二人。
北神 ほのかと赤坂 ひなただ。
「なによ! 私だって取材相手なんだからね! BLと百合とエロゲーの!」
頼んでないし、お前のは強要だからね。
「ハァ!? それを言うならこっちはリアルJKの取材よ、制服デートもできるわよ!」
なんか限りなくグレーなリフレに聞こえます。
言い合いになっている間もほのかのふくよかな胸と、ひなたの微乳が俺の顔を左右からプニプニ押し付けあう。
おしくらおっぱいまんじゅうでしょうか?
巨乳嫌いな俺からしたら、ひなたの微乳が圧勝です。
だが、それを『彼』が黙って見ているわけがない。
「おい、ほのか、ひなた! タクトから離れろよ!」
ミハイルはかなり興奮しているようで、思わず立ち上がる。
急いでほのかとひなたを俺から力づくで引き離す。
「二人ともどうしたんだよ!」
すると口火を切ったのはほのかの方だった。
「あー? うるせぇんだよ、せっかくミハイルくんと琢人くんをキスさせようとしてたのに!」
さすが変態女先生。
「キ、キス!?」
思わぬ返答で脳内パニックが起きるミハイル。
今までにないくらい、顔を真っ赤にさせている。煙が出そうだ。
「そうよ! あなたたちが尊いから、キスするところみたいの!」
セクハラかつジェンダー差別です。
「オ、オレとタクトが? 男同士だからできないよ……」
急にトーンダウンしたな、ミハイルくん。
「いいえ、性別なんて関係ないわよ、バカヤロー!」
怖いな、宗像先生の影響かしら。
「そうなの?」
納得したらあかんで、ミーシャ!
「当たり前でしょ! 可愛いが正義。私は琢人くんとミハイルくんが絡まっている姿を見るのが楽しいよ!」
結局はてめえの創作活動や偏った性欲を俺とミハイルにぶつけているだけである。
「からめる? なにを?」
いかん、その言葉を理解しては善良な学生が腐ってしまう。
ここは俺が阻止せねば。
咳払いをして、俺が間に入る。
「いいか、ミハイル。その言葉は知らなくていい。それよりもほのかにひなた。お前ら今日は一体どうしたんだ? さっきから言動が支離滅裂だ」
するとひなたが何を思ったのか、体操服を脱ぎだした。
小麦色の焼けた素肌とドット柄の可愛らしいブラジャーが露わになる。
「あー、あつい!」
「ひなた、お前なにしてんだ?」
「センパイだにゃ~ん ゴロにゃーん」
といって、俺の股間に顔を埋める。
「ん~ センパイのにおいがするにゃーん」
グリグリと鼻を俺のデリケートゾーンにこすりつける。
やめて、なんかその言い方だと、俺が小便臭いみたい。
「ああ! タクト、女の子になにをさせてんだよ!」
ナニをと言われても、返答に困りますよ、ミハイルさん。
誤解されるじゃないですか。
「ミハイル、勘違いするな。ひなたのやつが勝手に……」
そこへほのかがまた近寄ってくる。
「うへぇ~ 生JKのブラジャーだぁ」
鼻血を垂らしながら、赤坂の裸を食い入るように眺める。
「ほのか、見てないで助けてくれよ。お前らどうしたんだよ?」
俺は二人のキテレツな行動に違和感を感じていた。
「にゃーん、センパイ。またデートするにゃーん」
「デヘヘ、JKのブラ、ブルマ……おかずだ~」
これは……あれだ。
酔っぱらった母さんやミハイルの姉貴、ヴィッキーちゃんと同じような症状だ。
つまり、酒を飲んでいるな?
「ミハイル、お前こいつらなにを飲んでいたか、知っているか?」
「え? ジュースだろ」
「いや、こいつら酒を飲んでいるぞ」
「ええ!? そんな……」
俺とミハイルは辺りを見渡した。
するとそこには地獄絵図が……。
「デヘヘヘ……あすかちゃーん!」
「あ・す・か!」
大ボリュームでアイドルの曲を流しながら、オタ芸を始める日田兄弟。
他にも真面目組の奴らが口喧嘩したり、掴み合い、殴り合い、泣き出すものまで。
ここはどこの安い居酒屋でしょうか?
「いったい……どうなっているんだ?」
「わかんないよ、タクト。なんでオレたちだけ平気なの?」
ミハイルはこの世の終わりを見てしまったかのような顔で震えている。
「わからん、宗像先生はどこに行った?」
「うーん、さっきまでいたけど」
しばらくテントの中を探していると、バーベキューを担当していた男性教師たちが宗像先生にからまれていた。
「おい、こら! じゃんじゃん肉を焼け! つまみが足らん! そして、お前らも飲まんか!」
「ひぃ、勘弁してくださいよ、宗像先生……」
「ああ? お前らを大学まで入れてやったのはこの私だぞ! 雇われたからには黙って肉を焼け!」
たしか、ほのかのやつが言っていたな。
一ツ橋のスクーリングに来る教師はOBが多いと。
つまり宗像先生の元教え子でもあるのか。
ブラック校則でブラック企業か。
俺は進学をあきらめよう。
「ったく、お前らは生徒時代からノリが悪いな! ほら、酒を飲まんか!」
ハイボールを無理やり男性教師の口に押し付け、強制一気飲み。
「うぐぐぐ……」
「へへ、飲めるじゃないか、バカヤロー!」
苦しんでいる姿に笑みを浮かべる宗像先生は恐怖しか感じない。
いや、狂気だ。
するとあら不思議、さっきまでうろたえていた男性教師が叫び出す。
「あークソが! やっすい給料で日曜日出勤とかやってられっか!」
酒の力でブチギレると肉をコンロの上に目一杯乗せると火力を上げて、焼きだす。
ヤケクソなんだろうな……。
「ほぉ、いい感じだな。それでこそ、私の教え子だ」
なぜか満足そうにその姿を見つめる宗像先生。
気がつけば、俺とミハイル以外は全員、酔っぱらっていた。
真面目な生徒たちもヤンキーグループも教師も……。
なぜこうなった?
宗像先生が半焼けの肉を持ってくると俺たちの前に座った。
「よっこらっしょと。あれ、新宮。三ツ橋の生徒にナニをさせているんだ?」
この人は少し頬は赤いがあまり酔っていない様子だ。
普段からコーヒーにウイスキーを混ぜている疑惑もある。
アル中で耐性ができているのかもしらん。
「ナニもさせてませんよ! 酔っぱらってんですよ、ひなたも。先生、なんでみんな酔っぱらってるんです? 俺たちはジュースを飲んでいたのに」
「ありゃりゃ、本当だな」
宗像先生も知らないようだ。
「なにか心当たり、ありません?」
「ふむ、そう言えば、さっき生徒たちがジュースがなくなったっていうんでな。私が持っていたみかんジュースを注いでやったな」
「先生が持っていたジュース?」
こいつがノンアルコール持っているとか、既におかしい。
「それ、いつから持ってます?」
「ああ、一か月前にウイスキーで割ろうとして近所のスーパーで買っておいたんだよ。安かったからな」
「あの何回か、そのみかんジュースで割ってません?」
「そう言えば……やったかも」
お前が犯人だ!
ジュースにウイスキーを入れておいて、忘れたままだったんだよ!
「ミハイル、お前はみかんジュース飲んでないか?」
「うん、オレはいちごミルクが好きだから」
こういう時、いい子なんだよ、ミハイルちゃん。
俺は胸を撫でおろした。
ミハイルが酔っぱらっていたら、第二人格のアンナちゃんが出てくる危険性があるからだ。
「宗像先生、どうするんですか? みんな酔っぱらってますよ。このまま返したら親御さんに叱られません?」
俺が指摘すると宗像先生は急に顔を真っ青にして、慌てだした。
「ど、どうしよう! 新宮、私解雇されたくない!」
知るか、クビになっちまえよ。
それよりも俺がずっと気にしているのは股間に顔を埋める現役JKの赤坂 ひなたのことだ。
「にゃーん、センパイ。ぐひひにゃーん」
ネコ科だったのか、残念、俺は犬派でした。
無能教師、宗像 蘭によって一ツ橋の生徒たちは全員酔っぱらってしまった。
自ら飲んだものがいるが、宗像先生の持参してきたみかんジュースにウイスキーが混入していた疑惑があり、真面目な生徒たちまで被害にあってしまった。
これはちょっとした無差別テロではなかろうか?
大半の真面目な生徒たちは酒を飲んだことがないので、倒れるように寝込んでしまった。
ヤンキーグループは逆に飲み過ぎて、いびきをかいている。
かろうじて、意識を保っているのはギャルの花鶴 ここあぐらいだ。
「ちょっとさ、あーしに勝てる男とかいないわけ?」
その前にお前は未成年であることを自覚しろ。
バーベキューを担当していた男性教師たちまで、居眠りしながら肉を焼いていた。
というか、焦がしているだけなんだけど。
俺とミハイルだけはみかんジュースを飲まなかったので、被害にあわずにすんだ。
「なあ、タクト。みんな寝ちゃったけど、どうしよっか?」
うろたえて、おろおろと辺りを見回すミハイル。
こいつ、けっこうお節介焼きというか心配症だよな。
「そ、そうだぞ、新宮。どうしたらいい?」
涙目で俺の両手を握ってくる宗像先生。
お前が主犯なんだから、警察に出頭してください。
「ふーむ、このままみんなを家に帰したら、親御さんにクレーム入れられますね。というか、三ツ橋にも怒られます」
俺が冷静に分析していると、隣りで宗像先生が見たことないぐらいキョドッている。
ヤベッ、ちょっとおもしろくなってきた。
「ヤダヤダ! 蘭、三ツ橋の校長には知られたくないよ! あのおっさん、めんどくさいもん!」
酒を飲むと幼児退行するのか、このおばさん。
「ですが、もうバレてません? グラウンドの周りをよく見てください」
そう既に部活の練習をしていた三ツ橋の生徒たちがずっとこちらを不思議そうに見ているからだ。
「ぐえっ! あいつら、なんでこんなところで部活なんかやってんだ!」
いや、あなたがこんなところでバーベキューしたからでしょうが。
「グラウンドなんだから当然でしょ」
「三ツ橋の校長にバレたら嫌だ! ちょっとあいつらシメてくるわ」
そう言って、宗像先生は真面目に部活をしている生徒たちに突進していった。
モンスターティーチャーだ。
宗像先生は大声で叫んだ。
「おい、お前ら! 集合!」
顧問の先生でもないのに、三ツ橋生徒を気迫だけで強引に集めさせる。
健気にも彼らは横暴な教師の命令に従い、宗像先生の元へと群がる。
「いいか! 一ツ橋の生徒たちはみんなお昼寝中だ! だからこのことは黙っていろよ!」
酷い言い訳だ。
「「「はーい」」」
お前らもそれで納得するの。
「一ツ橋の子供たちはな、毎日働いて休日に学校にくる勤勉な学生たちだ。日頃の疲れが出てしまったんだよ……」
話が変な方向にむいているぞ。
宗像先生のとってつけたような説明にもかかわらず、数人の生徒たちは何人か泣いていた。
「うう……私たち一ツ橋の人のこと誤解してました」
「毎日働いて休みに学校で勉強するなんて、マジリスペクトっす」
「俺も編入しよっかな」
最後の人、惑わされたらアカンで!
こうして、どうにか三ツ橋の生徒たちを洗脳することに成功した宗像 蘭であった。
「しかし、どうしたものか……このまま、家に帰すわけにはいかんぞ」
尚も俺の股間に顔を埋める赤坂 ひなたを見下ろしながら呟いた。
背中のブラのホック、取ってやろうかな。
俺がそんなよこしまな考えを抱いていると、ミハイルがひなたの背中に体操服をかける。
「ひなた、起きろよ。タクトにくっつきすぎ!」
ミハイルがひなたの肩をゆするが、びくともしない。
「にゃーん……」
新種のウイルスにかかったようにネコ語が抜けてない。
「ところで、タクト。なんでお家に帰したらダメなんだ?」
「そりゃそうだろよ。だって未成年を飲酒させている時点で大問題だ。ヤンキーグループは日頃から飲んでいるみたいだから、あまり問題にならんかもしらんが……」
「そうなの? 力とここあは小学生のころから飲んでいたよ」
それって虐待じゃないですか?
「ま、まあ人の家庭なので、聞かなったことにしておこう……。だが、千鳥や花鶴なんかはバイク通学だろ? 飲酒運転したら逮捕されるぞ」
「ええ!? そうなの?」
口をあんぐりと大きく広げて驚くミハイルさん。
この人の常識とかアップデートされないんですかね?
「当たり前だろ。そういう法律だし、事故って死ぬ可能性だってある。逆に誰かを死なせる危険な行為だ」
「知らなかった。物知りなんだな☆ タクトってやっぱすごい!」
あなたがおかしいんです。
そうこうしているうちに宗像先生が戻ってきた。
「名案を思いついたぞ、新宮、古賀」
何やら不敵な笑みで俺とミハイルを交互に見つめる。
「どうするんですか、こんなにたくさんの酔っ払い学生たちを」
「フッ、この名教師、蘭ちゃんからしたらお茶の子さいさいだ!」
今日日聞かない言い方ですね。
自信満々の笑顔で宗像先生はこう言った。
「このまま全員、学校に泊まらせよう!」
「……」
やはりバカはバカでした。
期待した僕が無知でごめんさい。
「わーい! 遠足みたいだ☆」
ジャンプして喜ぶ15歳、高校生。ちなみにヤンキーです。
「ははは、古賀は偉いな。さっそく寝ている連中を三ツ橋の食堂に連れていこう。あそこなら晩飯もあるしな」
この人、食堂で毎回晩飯パクってるんじゃないか?
「あ、オレ、力には自信あるんで連れていきます☆」
自ら手をあげるミハイル。
やけに乗り気だな。
「うむ、じゃあ古賀と新宮で手分けして生徒たちを連れていってくれ。私はテントとバーベキューとかの後片付けをするからな」
歓迎会じゃなかったの?
放課後に重労働とか、ブラック校則じゃないですか。
勤労学生ですよ、俺たち。
「仕方ない、やるか。ミハイル」
「うん☆ 学校に泊まれるなんてレアだよな☆」
レアなんてもんじゃない。前代未聞の出来事だよ。
俺はとりあえず、ひなたに服を着せてあげて、彼女をおんぶしてあげる。
ミハイルはほのかと日田の兄弟をひょいひょいとおもちゃのように軽々と持ち上げる。
「よし、行こうぜ☆」
たくましい。
俺なんか細い身体の女子を一人おんぶするだけでしんどいのに。
そこへ花鶴が声をかけてきた。
「おもしろそうだから、あーしもやっていい?」
あれだけ酒を飲んでピンピンしてんな。
酒豪だわ。
「んじゃ、花鶴は千鳥とかを頼むよ」
「りょーかいだぴょーん!」
アホな返事をすると、これまた花鶴 ここあはひょいひょいと千鳥のほかにがたいのよいヤンキーたちを4人もかつぐ。
お米じゃないんだから。
さすが伝説のヤンキーだわ。
グラウンドと食堂を行き来すること、30分ほどで一ツ橋の生徒たちを無事にテントから脱出させることができた。
三ツ橋の食堂は俺たちがスクーリングで使っている教室棟から出て、駐車場の目の前にある。
全日制コースの生徒たちが昼飯を食べているところだけあって、敷地はかなり広い。
フローリングで冷たい床に、一ツ橋の生徒たちを寝かせた。
「はぁ、疲れた」
「そうか? オレは楽しかった!」
あなたは規格外の体つきなんでしょうよ。
「あーし、飲みなおしたいな~」
もういい加減にしてください。
俺たち3人は一仕事終えると、縦長テーブルのイスに腰を下ろした。
「てかさ、布団とかどうすんのかな?」
花鶴がスマホをいじりながら言う。
「さあ? 宗像先生のことだ。なにかしら持ってくるだろさ」
「ワクワクすんな、タクト☆」
そのポジティブな性格、ちょっと尊敬できます。
「あ、家に連絡しなきゃな…」
なんて言い訳すれば、いいんだろうか?
「あーしは親が無関心だからパスで」
荒れているんですね。心中お察しします。
「オレはあとでねーちゃんに電話するよ☆ でもさ、寝ちゃっているやつらの親には誰が電話すんの?」
ミハイルに言われて気がついた。
どうしたらいいもんか。
その後俺とミハイル、花鶴の3人は、眠っている生徒たちのスマホを拝借して各自の家に「オレオレ」とか「あたしあたし」とか言ってどうにかごまかした。
まさか俺たちがこんな詐欺に手を染めることになるとは……。
俺とミハイル、花鶴 ここあの三人で各生徒のスマホを無断で使用し、本人を偽って、『学校に泊まる』と連絡した。
その後、宗像先生が食堂に来ると、両手にたくさんのスーパーの袋を手にしていた。
「よう、おつかれさん! 差し入れ持ってきたぞ!」
ビニール袋を食堂のテーブルに置く。
中身をのぞくと大半が酒とつまみ。
「宗像先生、まだ飲む気ですか?」
「バカモン! 夜通し飲むのがいいんじゃないか」
よくねーよ。
生徒たちを急性アルコール中毒にしやがって。
「でも、宗像センセ。晩ご飯とかお布団とかどうするんすか?」
ミハイルがお母さんに見えてきた。
「ああ、それなら問題ない」
と言いつつ、ハイボールをガブ飲みする。
「晩ご飯は食堂の冷蔵庫から適当に使え。布団なら私があとで持ってくるからな」
こいつは、学校をなんだと思っているんだ。
「じゃあ、オレがみんなのご飯作ってもいいっすか?」
やけにノリ気ですね、ミハイルママ。
「お、古賀は料理ができるのか。ついでに先生にもなんかつまみを作ってくれるか?」
こんの野郎、てめぇは反省しとけ。
「了解っす☆ 嫌いなものはないですか?」
嫁にしたい。
「ああ、ないぞ。古賀の作った料理楽しみにしておくからな」
ニカッと歯を見せて笑う残念アラサー女子。
一応、ミハイルは男の子なんですよ?
花嫁修業としてあなたが作るべきじゃないですか。
「楽しみに待ってくださいっす☆」
そう言うと彼は鼻歌交じりに厨房へと入っていた。
というか、無断で食材を使って料理するのって窃盗罪及び不法侵入に該当しませんか。
隣りのギャルと言えば、スマホをずっといじっている。
「花鶴、お前は料理とかするのか?」
俺がたずねると顔をしかめた。
「はぁ? あーしが料理とかするわけねーじゃん。料理って男が作るもんだべ」
え、近代的な回答。
私が間違っていました。
「なるほど……さっきお前のご両親は子供に無関心みたいなこと言ってたよな?」
「うん、そだね。あーしが深夜に遊んでも友達ん家に泊まっても全然心配されないっしょ」
超ポジティブに家庭問題を語るギャルちゃん。
「それ問題じゃないのか? お前のお父さんお母さんは普段なにをしているんだ?」
「は? そんなんフツーは知らないっしょ」
普通の解釈に僕と誤差が感じられます。
「マジか」
「うん、生まれてからずっとそんなんだったからさ。ミーシャの家とかでメシ食べさせてもらってたなぁ。というか、ミーシャがよく料理を持ってきてくれてたし……」
最強お母さん、ミハイル。
優しい世界だ。
「千鳥もそんな感じか?」
床でいびきをかいているハゲを指差す。
「うーん、力はちょっと違うかな。あそこは父子家庭でおっちゃんは優しいハゲだよ?」
劣性遺伝子を受け継いでしまったのか。可哀そうなハゲ。
俺らが駄弁っているとミハイルが厨房から大きな鍋を持ってきた。
「晩ご飯作っておいたぞ☆ 今日は大勢だからバターチキンカレーな☆」
この短時間でどうやって本場インドカレー作ったんだ?
「今から宗像センセのおつまみ作るぞ☆」
笑顔でキッチンに戻る。その後ろ姿、早く嫁に欲しい。
「さっすが、ミーシャ。男の子だよね」
失われる日本男子たちよ。
「ミハイルは特別だろ……」
~数時間後~
ようやく酔いが覚めたようで、床に転がっていた生徒たちがチラホラと目を覚ます。
みんな頭を抱えて、しかめっ面で起き上がる。
「いったーい、ここどこ?」
未だにブルマ姿の赤坂 ひなた。
「おお、ひなた。目が覚めたか」
「センパイ!? 私、今までなにしてましたっけ?」
さすがに酔っぱらって俺のナニに顔を突っ込んでいたとは言えない。
「ん? そのあれだ。みんな宗像先生が間違えてジュースに酒を混入させて振舞っちゃって……で倒れてた」
言葉に出すと事件性が悪質であることを再確認できる。
「ええ、私倒れてたんですか……ってか、ここ三ツ橋の食堂ですよね? 誰がここまで私を運んでくれたんですか?」
首をかしげるひなた。
「俺だよ」
そう答えるとひなたは顔を真っ赤にして、モジモジしだす。
「セ、センパイが? 嫌だな、ヨダレとか出してませんでした? 恥ずかし」
いや、あなたの場合、そんな可愛らしい寝相とかそういう次元じゃないんで。
露出ぐせがパなかったです。
「その件なら問題ないさ」
「良かったぁ」
胸をなでおろすひなた。
事実を知ったら不登校になり兼ねないので、事実は隠ぺいしておく。
そこへミハイルが現れる。
「ひなた、起きたか? ほら、水飲めよ☆」
ミハイルはいい嫁になりますね。
「あ、ありがとう……ミハイルくんは大丈夫だったの?」
「うん☆ オレとタクトは大丈夫☆」
花鶴はノーカンか、かわいそうに。
「腹減ったろ? 今、カレーあたためてってからな」
ミハイルがどんどんみんなのお母さんになっちゃう。
そして、次々と生徒が目を覚まし、起きる度にミハイルがコップに水を入れて持っていくその姿は正に聖母である。
全員、目が覚めたところでテーブルに一列に並ぶ。
ミハイルは一人ひとりにランチョンマットとスプーン、フォークを置き、最後に白い大きな皿を配る。
スパイシーな香りが漂う。
「じゃあ、おかわりもたくさんあるし、あとタンドリーチキンも別に作ったから、みんなたくさん食ってくれよ☆」
おいおい、タンドリーチキンがつまみかよ。
ミハイルの高性能ぶりに多くの女子たちがガクブルしていた。
「ちょ、ちょっと古賀くんってあんなに女子力高かった?」
「女子より女子じゃん。プロレベルだし」
「くやしー! 私もこんなに料理上手かったら彼氏にフラれなかったかも!」
ドンマイ!
その後はみんな「うまいうまい!」と連呼しながら、ミハイルの料理を味わった。
時には涙を流すヤンキーまでいた。
「うめぇ、死んだおふくろの味だぜ」
嘘をつけ! お前は絶対日本人だろ!
俺も料理を食べ始めるとミハイルが隣りに腰をかける。
「タクト、うまいか?」
「ああ、安定のプロレベルだな」
「そっかそっか、良かったぁ☆」
自分は食べずに俺の食う姿をニコニコと笑って見つめる。
食っている姿を見られるのもこっぱ小恥ずかしいもんだ。
「あれ、オタッキーってミーシャの料理食べたことあんの?」
スプーンを口に加えたまま、喋る花鶴。
「え……」
ヤベッ、アンナとミハイルがごっちゃになりつつあるな。
「いや、お昼に弁当もらったし、それでな」
「ふーん、ミーシャと仲良いんだねぇ」
どこか不服そうだ。
「そう言えば、宗像センセはどうしたの? オレ、つまみ作ったのに」
「あんなバカ教師、放っておけ。つまみなんて作ってやる義理はない」
至極当然な答えだ。
「誰がバカだって? 新宮」
振り返るとそこには鬼の形相で見下ろす宗像先生が。
「あ、いや……宗像先生。ミハイルがつまみにタンドリーチキン作ったらしいっすよ」
「え、マジ!? やったー!」
ほら、やっぱバカじゃん。
しばしの夕餉を各々が楽しんだ後、時計の針は『22:21』に。
「さあ、そろそろ寝るぞ。みんな!」
と宗像先生はタンドリーチキンを片手に叫ぶ。
こいつはミハイルの味をしめやがって。
「寝るってどこに寝るんですか? 床は汚いし冷たいですよ」
俺がそう言うと、宗像先生は「へへん」とどこか自信ありげに答えた。
「布団を持ってきたぞ!」
そう言って、先生はどこから持ってきたのか、薄汚れた体育マットを何枚も食堂に持ってきた。
「どれでも使え!」
それを見た生徒たちは一斉に静まり返る。
「先生、帰ってもいいですか?」
「バカモン! まだ酒くさいやつもいるだろが! 証拠隠滅に手を貸せ」
こんの野郎が。
「タクト、オレこんな布団で寝るの初めてだよ☆」
いや俺だって初体験だわ。
クソが。
俺たちは食堂の重たいテーブルをみんなで壁に寄せた。
スペースを確保して後、宗像先生が用意したきったねぇ体育マットを床に広げる。
正直、毎日掃除されてそうなフローリングの方がキレイに感じる。
だが、床に寝るのも肩や腰を痛めそうだし、我慢しよう。
「あの、先生」
宗像先生の方を見ると食堂のカウンターで立ち飲みしていた。
ミハイルが作ったタンドリーチキンをうまそうに頬張る。
「うめっうめっ……」
泣きながら食してらっしゃる。
よっぽど普段から貧しい食事を摂取しているようだ。
ハイボールを一気飲みすると俺に気がついた。
「どうした? 新宮」
「いや、枕とかないんですか?」
俺の質問に宗像先生は顔をしかめた。
「あ? 枕だぁ? 私なんか毎日事務所のソファーで寝ているんだぞ? そんな高価なものはお前らには必要ない!」
枕うんぬんの前にお前の家がないことに驚きだよ。
事務所を自宅にするな!
「じゃあどうしたら……」
「カバンとかリュックサックでも使ったらどうだ? 私は毎日教科書を束ねて枕にしているぞ」
お前はそれでも教師か!
「わ、わかりました……」
聞いた俺がバカだった。
肩を落として、自分の寝るマットを探す。
するとミハイルが俺の左腕を掴む。
「タクト☆ 一緒に寝ようぜ」
グリーンアイズをキラキラと輝かせて、迫る可愛い子。
夜這いOKってことすか?
「ああ、かまわんけど」
こいつとは自宅でも一緒に寝たことあるしな。
「ズルい! 私もいれてください」
そこへ茶々を入れるのは赤坂 ひなた。
着替えがないのか、未だに体操服姿にブルマだ。
「いや、ひなた。お前は一ツ橋の生徒じゃないし、酔いも冷めただろ? 家に帰ったらどうだ?」
「はぁ? 嫌ですよ! 私だって同じ学園の仲間ですよ! 私も一緒に寝かせてください。心細いんです……」
確かに一人だけ全日制コースの生徒だからな。
寂しいんだろう。
「だが、ひなたは女子だろ? 一緒には寝れないよ」
寝たいけどね。
「ええ……前に寝たことあるくせに」
口をとんがらせる。
誤解を生むような発言はやめてください。
その言葉を見逃すことはないミハイルさん。
「ダメダメ! ひなたはここあかほのかと寝ろよ! それにタクトとラブホで寝たのは偶然だろ」
おい、お前が失言してどうするんだ。
「え……なんでミハイルくんがあのこと知っているの?」
顔を真っ赤にして、動揺するひなた。
そりゃそうだ、あのラブホ事件を知っているのは俺とひなた、福間。それにアンナぐらいだ。
あくまで女装中のアンナちゃんだぜ。
ごっちゃになってるよ、ミハイルくん。
「え、だって……あ!?」
思い出したかのように、口に手を当てて隠すミハイル。
だがもう遅い。
ラブホという言葉に何人かの生徒たちが耳を立てていた。
「オタッキー、この子とヤッたの?」
花鶴 ここあがなんとも下品なことを聞いてくる。
「ヤッてねーよ」
「そうなん? じゃあラブホで断られた的な?」
「あれは事故だ……説明が面倒だ。とりあえず、ただ入っただけだよ」
事実だし。
「ふーん、ひなたんだっけ? マジでヤッてないの?」
勝手にあだ名つけてるよ、この人。
話を振られて、顔を真っ赤にする赤坂 ひなた。
「し、してないかな……」
なんで疑問形?
やめてよ、あなたとはそういう関係じゃないでしょ。
「なんかスッキリしなーい。ラブホ入ってさ、ヤラないカップルとかいんの?」
いるだろう、口説くのに失敗した人とか。
「カップルだなんて…私と新宮センパイはまだそんな仲じゃ……」
おいおい、やめてよ。勝手に盛り上がるのは。
「ここあ! タクトとひなたはただの知人。ダチでもないの!」
ブチギレるミハイル。
ダチ認定は俺が決めるんで、あなたにはそんな権利ないっすよ。
「そうなん? ひなたんはどうなん? タクトとワンチャンありそうなん?」
それってどっちにチャンスがあるんですか?
「えっと、私は新宮センパイのこと、前から尊敬できる人だって思ってます」
モジモジしだす赤坂 ひなた。
「へぇ、てことはヤッてもいい男ってことっしょ」
こいつはヤるかヤラないかでしか、関係を築くことができないのか?
「もうやめろよ、ここあ! タクトが困っているだろ!」
おともだちの床をダンダンっと踏みつけるミハイル。
「別によくね? オタッキーは他にヤリたい女でもいるん?」
あの、そこは『好きな人』とかで良くないっすか。
言われて回答に困った。
「そ、それは……」
俺が口ごもっていると、ミハイルとひなたが左右から詰め寄る。
「いるよな! タクト!」
「そんなビッチがいるんですか? センパイ!」
ちょっと待てい。ミハイルはヤるって意味わかってないだろ。
それからひなたはアンナに謝れ。
俺たち4人で恋愛トークならぬヤリトークで盛り上がっていると、宗像先生がやってきて、「やかましい」と全員の頭をブッ叩いた。
「いって」
「キャッ」
相変わらず可愛い声だミハイル。
「ゲフン」
「ってぇ」
女子陣は可愛げもない。
「なーにをヤるだヤラないだってピーチクパーチク言っているんだ! 学生の本分は勉学だろ!」
教科書を枕にしているようなあなたには絶対に言われたくない。
「さっさと寝ろ!」
「それなんすけど、赤坂 ひなたが俺と一緒に寝たいって言うんです。さすがにまずくないですか?」
俺がそう言うと宗像先生は鼻で笑った。
「いいじゃないか、ガキ同士仲良く寝ちまえ。間違いはおこらんよ。私が見ているしな」
そう言う問題ですか?
「やったぁ!」
ジャンプして喜ぶひなた。
「んならあーしも一緒に寝るべ」
どビッチのギャルがログイン。
「なんでここあまで……」
涙目で悔しがるミハイル。
結局、花鶴 ここあ、赤坂ひなた、俺、ミハイルの順に一つの体育マットで寝ることになった。
「タクト、もっとこっちに寄れよ」
「ちょっと! センパイが狭くなるでしょ?」
「いいんだよ、タクトがひなたに変な気起こしたら教育上良くないだろ」
「別になにもしないわよ。ミハイルくんってなんでそんなに新宮センパイにこだわるの? なんかお母さんみたい」
だってお母さんだもの。家事ができる高スペックママ。
「オ、オレは……ただアンナのためにタクトを守っているんだ」
「え? アンナちゃんの知り合いなの?」
口論が続いているが、俺は沈黙を貫く。
なぜならば、左右からミハイルとひなたに両腕をちぎれるぐらいの力で引っ張られているからだ。
マジいってーな。
花鶴 ここあはいびきをかいて寝てしまった。
腹をかきながら夢の中。スカートがめくれてパンツはモロだし。
「アンナはオレのいとこだよ」
「だからね、身内のために私とセンパイの仲を裂こうってわけ?」
「そんなんじゃないって……タクトとアンナは仕事で取材してるから…」
「私もセンパイと取材してるけど?」
あーうるせ、こいつら。さっさと寝ろよ。
「と、とにかくタクトはオレしかマブダチがいないの! だから今もこうやって優しくしてあげないとかわいそうだろ」
なにそれ、頼んでない。それに俺はそんなことじゃ寂しくならない。
むしろ、二人に抱き着かれて暑苦しい。
「それもそうね。なら二人でセンパイを優しくしてあげましょ。かわいそうだもの。一人で毎晩シクシク泣いているんだよね……」
納得すんなよ。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
そう言うと二人とも落ち着いたようで、寝息を立てながら眠りについた。
当の俺と言えば、目がギンギンだ。
なぜならば、左から微乳がプニプニ、右からは絶壁がグリグリ。
俺の性癖が絡み合っているのだから。
「ムニャムニャ、タクトぉ……」
「しぇんぱい……」
暗い食堂の中、俺は興奮して一向に眠ることができなかった。
なんだったら下半身が元気になりそうで困っていた。
そこへ足音が近づいてくる。
「新宮、自家発電なら便所に行ってこい。黙っておいてやる」
汚物を見るように見下す宗像先生だった。
目が覚めてまず視界に入ったのはミハイルの寝顔。
すぅすぅと寝息を立てて、まだ夢の中。
俺の胸の中で。
やけに肩がこるな…と思っていたら左腕にコアラのようにしがみつく赤坂 ひなたが。
一晩中、腕をしめられていたので、血流が悪くなっているようだ。
しびれて痛む。
尿意を感じ、起き上がろうとする。
するとミハイルがそれに気がつき、瞼をパチッと開いた。
朝焼けと共に彼のグリーンアイズがキラキラと宝石のように輝く。
「おはよ、タクト☆」
「ああ、おはよう」
フフッと笑みを浮かべると、俺の胸を軽くトントンと指で叩いてみせた。
「よく眠れた?」
この状況でそれ言います?
薄汚いマットのせいで腰も痛いし、あなたに胸部を圧迫されてたし、左腕はひなたのせいでしびれているんですよ。
しんどいです。
「まあな。ところでトイレ行きたいからどいてくれるか?」
「あ、ごめん。今どくよ」
ミハイルが俺の身体から離れると、それに呼応したかのように赤坂 ひなたが目を覚ます。
「ううん……あ、センパイ! なんで私のうちにいるんですか!」
そう言い放つと朝も早くから力強いビンタをお見舞い。
「いってぇ!」
危うくおしっこ、漏らすところだったよ。
「あ、ごめんなさい。昨日はみんなで一緒に寝たんでしたね。ははは……」
笑ってごまかすひなた。
慰謝料として、朝のパイ揉みさせてください。
「そうだぞ、ひなた! タクトにくっつきすぎ! タクトの腕が痛くなるだろ」
いや、ミハイルも人のこと言えません。
「はぁ? ミハイルくんだって新宮センパイにベタベタしながら寝てたじゃん!」
朝から元気なやつらだ。
「べ、別にダチだからいいんだよ!」
それホモダチ?
「友達だからってなにをしてもいいわけじゃないのよ!」
ナニをしたらダメなの、教えてひなた先生。
「ところで、タクト。ここあはどこに行ったの?」
「そう言えば、花鶴さんでしたっけ? 見ませんね」
タバコでも吸ってんじゃない、知らんけど。
「どっかにいるだろ。とりあえず、トイレに行かせてくれ……」
「あ、そうだったな。オレと一緒に行こうぜ☆」
「じゃあ私も同行します!」
お前らはいい年こいて連れションかよ。
「わかったわかった」
呆れながら、身体を起すと何か見慣れない風景が。
「お、おい……なにやってんだ。花鶴」
見当たらないと思っていたら、俺の下半身に顔を埋めていた。
しかも『もう一人の琢人くん』に唇をあてるような感じで。
「ここあ! なにしてんだよ!」
気がついたミハイルが花鶴を力づくてどかせようと試みるが、なかなか動かせない。
あの力自慢の彼ですら、花鶴は微動だにしない。
体重が100キロぐらいあるんじゃないのかな。
「そうですよ! 花鶴さん、新宮センパイから離れてください!」
ミハイルに加勢するひなた。
だが、一般女子が力を貸したところで伝説のヤンキー『どビッチのここあ』はビクともしない。
むしろ、俺の股間にグイグイと突き進む。
まるでモグラのようだ。
やだ、俺まだバージンなのに膜が破られちゃう。
「ううん……もうちょっと寝かせてよぉ~」
花鶴は朝がかなり弱いようだ。
「困ったやつだ」
俺は呟いたあと、ある異変に気がついた。
異変というか、男子ならば正常な出来事なのだが。
尿意を感じているなら、わかるだろう。
秘剣『朝の太刀』だ。
直立した俺の真剣に女の花鶴が口づけしている……これはどう言い訳したものか。
だがアクシデントだ。
平常心、平常心。
必殺技というものは常に明鏡止水を保っていないと発動できないのだ。
ここは剣に鞘が収まるまで待とう。
「ふぅ~」
ミハイルとひなたに気がつかないように息を整える。
「もうタクトのほうを引き離そうぜ、ひなた」
「そうだよね、センパイ軽そうだし、名案だよ。ミハイルくん♪」
こういう時だけ、結託しないでください。
「ま、待て……花鶴を起こしてしまうじゃないか」
言いながら、非常に苦しい言い訳だと思った。
「なにをいってんだよ、タクト。おしっこ漏れちゃうぞ」
あなたも男の子なんだから察してよ、この生理現象。
「そうですよ、センパイ。我慢しすぎると膀胱炎になっちゃいますよ」
お母さんかよ。
「いや、あの……そうじゃなくてですね。なんと言ったらいいでしょうか」
なぜか俺が敬語。
「何が言いたいんだよ、タクト。男ならハッキリ言えよ」
お前も男だろ、わかってよ。
「もう早くセンパイと花鶴さんを引き離しましょ。ミハイルくん」
「そうだな☆」
二人して、俺の両肩を持つとスタンバイOK。
「「せーの!」」
スポン! と花鶴から引き離された。
俺氏、軽すぎ。
ほんぎゃぁー!
元気な赤ちゃんが生まれましたよぉ~
大きな男の子です、ほら証拠に立派なものがついているでしょ?
「「……」」
お産が無事に済んだというのに、助産師のお二人は赤ちゃんを見て絶句。
「あ、あのお二人さん? これ、違うからね。ミハイルならわかるよね?」
見上げるとミハイルは見たこともないような冷たい顔で俺を見つめていた。
あれ、おかしいな。
寝る前もこんなことがあったような……。
「タクト、ここあにそういう気持ち持ってんだ……」
「ち、違う! わかるだろ、男のお前なら!」
「わかるわけないじゃん! タクトのヘンタイ! 見損なった!」
怒りながら泣いてるよ、この人。
「センパイ……ラブホで助けてくれたときは尊敬してましたけど、今減点になりました」
凍えるような冷たい声を投げかけるのは赤坂 ひなた。
「ひなた、お前はなんか勘違いしているぞ? 女のお前はわからないだろうけど……」
「わかりたくもありません! 結局、男の人って女の子だったら誰でもいいんでしょ!」
あの、人を性犯罪者みたいな扱いしないでください。
「ミハイル、ひなた、落ち着け。これはだな、保健の授業とかで習ってないか?」
俺が弁明すると二人は声を揃えて、叫んだ。
「「ない!」」
マジ? 教科書に追加しといて、秘剣『朝の太刀』を。
「ううん……さっきからなにをいってんの?」
瞼をこすりながら、花鶴 ここあが目を覚ました。
彼女の目の前には立派な真剣十代が構えられていた。
「ああ! オタッキーってば、朝からゲンキじゃん!」
ニヤニヤ笑って、俺の真剣と顔を交互に見比べる。
まるで「へぇ、こんなサイズなんだ」とでもいいだけだ。
だが、こいつは秘剣『朝の太刀』の存在を知っているかのような口ぶりだ。
「ここあ! タクトから離れろよ! お前のせいで、タ、タクトの……おち、おち……」
落ち着いて!
「そうですよ! 花鶴さんがセンパイのこ、股間に……その……顔を」
皆まで言うな。
「は? あーし、なんか悪い事したん?」
やっとのことで起き上がる花鶴。
だが彼女の言い分も確かに一理ある。
もちろん、俺の生理現象もだ。
「そ、それは……ここあがタクトのおち……おち…」
だから落ち着けよ、ミハイル。
「花鶴さんがセンパイにくっついたから、センパイが興奮しちゃったんです!」
してないから、一ミリもしてません。断言します。
あるとするのなら微乳のあなたの方に武があります。
「えぇ、あーしが悪いん? オタッキーのこれはフツーのことっしょ」
なぜバカでビッチな彼女に養護されているのでしょうか?
常識を持ち合わせているなんて予想外です。
「ふ、フツー!?」
目を見開いて絶句するミハイルさん。
「普通なわけないでしょ!」
解釈を間違ってますよ、ひなたちゃん。
「え? うちのパパも毎朝こんなんだよ?」
聞きたくない人の親のことなんて……。
「「ウソだ!」」
絶対に認めたくない彼と彼女。
「おう! お前ら早いな!」
そこへ現れたのは宗像先生。
「あ、宗像センセー! タクトのお股がこんなんになってんの、普通なんすか?」
人を標本にしないで。
「絶対に違いますよね? 花鶴さんに興奮したからですよね?」
急に始まっちゃったよ、保健体育の授業。
しばらくの沈黙の後、宗像先生はこう言った。
「なんだ、健康な男子の証拠だな。これは秘剣、朝の太刀というやつだ。朝太刀ともいうな」
「「……」」
黙り込むお二人さん。
それより、そろそろ膀胱が決壊しそうなので、トイレに行かせてください……。
どうにかミハイルとひなたの目を盗んで用を済ました。
トイレから戻ってくると食堂に寝ていた生徒たちがぼちぼち起き出す。
皆、足腰をさすりながら、起き上がる。
まああんな薄いマットで一夜を過ごせばな……。
食堂の時計の針を見れば、まだ朝の6時前だ。
俺が戻ってくるのを待っていたかのように、宗像先生が慌てて駆けてくる。
「新宮、ちょうどいいとこに来たな! こいつら早く食堂から連れ出してくれ!」
必死の形相で言う。
「え、なんですっか? まだゆっくりしても……」
「バカモン! もう少ししたら三ツ橋の校長が出勤してくるんだよ!」
なにを思ったのか、俺の両肩を掴むと力強く揺さぶる。
首がすわってなかったら、折れそう。
「それが何の問題なんですか?」
「怒られるだろ! あの校長、超めんどくさいんだよ! 特に一ツ橋のスクリーング後はタバコの吸い殻がないか、荒さがしするんだよ、アイツ!」
校長をアイツ呼ばわりとか。それに喫煙を公認してんのはあんただろ。
俺はタバコ吸ってないし、昨日のことはお前が招いた失態だ。
「とりあえず、三ツ橋の校長先生に見つかる前に帰れってことですか?」
ゴミを見るかのような目で呆れる俺。
「そ、そうだ! 新宮は新入生の中でリーダー的存在だろ? さ、帰れ帰れ」
こんのクソ教師が。
「わかりましたよ……」
俺は渋々、宗像先生の要請を受領する。
「よ、よし! さすが我が校の生徒だな!」
もう生徒じゃありません。退学したいので。
宗像先生はまだ寝ていた生徒も無慈悲に蹴り起こす。
「こら! お前らさっさと起きろ! そして出ていけ!」
自分で勝手に寝かせておいて、酷い扱いだ。
「えぇ? まだ早いじゃないっすか?」
千鳥 力がスキンヘッドの頭をボリボリかく。
「やかましい! 昨日の出席を欠席扱いにするぞ、コノヤロー!」
恐喝じゃん。
「ひでぇな、先生……」
宗像先生は用なしと見なすと一ツ橋の生徒たちを食堂から文字通り叩きだした。
食堂前の駐車場にみんな集まった。
「いいか、三ツ橋の教師にバレないようにコソコソ帰るんだぞ? 物音を立てず決して声は出すなよ?」
まるで俺たちは不法侵入者のようだ。
「私、三ツ橋の生徒なんですけど?」
イレギュラーが一人いた。
全日制コースの赤坂 ひなただ。
未だに昨日の体操服姿のまま。これはこれで発見されたらまずいのでは?
ひなたを見てうろたえる宗像先生。
「う! お前は『あらやだ、私ったら教室で寝ちゃった♪』ってことにしとけ」
酷い言い訳だ。
「ええ……家に帰っちゃダメなんですか? お風呂にも入ってないし……」
「バカモン! 手洗い場かトイレで洗っちまえ! 石鹸も無料であるし」
ホームレスじゃん。
「そんな! トリートメントとかしないと髪、痛みますよ?」
女子特有の悩みですね。
「トリートメントだぁ? 上品ぶってんじゃねーぞ、ガキのくせして! 来い、私が隅からすみまで洗ってやらぁ!」
導火線に火がついたようで、ひなたの頭をおもちゃのように片手で掴むと校舎へ連れ込む。
「いやぁ! 新宮センパイと一緒に帰りたい~!」
宙で足をバタバタさせる。
「やかましい! 学生は学校の石鹸で充分だ!」
酷い校則だ、この時ばかりは通信制で良かったと思えた。
「センパイ~ 助けて~!」
涙目で俺に助けを呼ぶひなた。だが、俺も早く帰りたい。
「悪いな、ひなた。ブルマのまま授業を受けてくれ」
「センパイのいじわる! 薄情者!」
なんとでも言うがいい。
俺は彼女に背を向けた。
「さ、帰るか。ミハイル」
「そだな、一緒に帰ろうぜ☆」
ミハイルってどんなときも落ち着いて対処できるよな。
感心します。
俺たちは宗像先生から言われたように、三ツ橋の関係者にバレないよう、正門からではなく裏門からコソコソ帰っていった。
なんやかんやで初めてのお泊り。というか未成年拉致事案だと思うのだが。
第一回一ツ橋高校、歓迎会及び合宿は終了した。
※
最寄りの駅、赤井駅にぞろぞろと一ツ橋の生徒たちが集まる。
これはこれでかなり悪目立ちしている。
田舎の駅に朝早くから若者が集合しているからな。
謎の集団と思われているだろう。
駅のホームにミハイルと仲良く並ぶ。
「楽しかったな☆ パーティとお泊り会☆」
「そうか? 宗像先生が一人でパーリィしてただけだろ……」
早くクビになんないかな、あのバカ教師。
「お二人さん♪ 私も混ぜてよ」
振り返ると後ろにはナチュラルボブの眼鏡女子、北神 ほのかが立っていた。
すっかり酒も抜けているようで、血色もよい。
「ほのかか。二日酔いとかないか?」
「うん、あれぐらい徹夜の同人制作に比べたら問題ないっす!」
親指立てて笑顔で答える。
「そうか、よかったな……」
そうこうしているうちに電車が到着。
三人で同じ車両に並んで座った。
朝早いこともあって、車内はガラガラ。
「ところで琢人くん、明日何時に待ち合わせする?」
「え? なんのことだ?」
「何って取材でしょ。コミケだよ」
ファッ!?
忘れてた……変態女先生に取材と言う名の拷問を強要されていたんだ。
それを隣りで聞いて黙っているミハイルくんではない。
「なんだよ、それ! タクトはアンナと取材するんだぞ!」
拳を作って、怒りで震えている。
「ええ? 私が先約だよぉ。ねぇ琢人くん?」
俺に振るなよ。
「そうなのか!? タクト、アンナがいるのにほのかとデートすんのかよ!」
ギロッと俺を睨みつける。
「ま、待てミハイル。ほのかとはデートじゃない。あいつの趣味に付き合ってるだけだよ」
「趣味ってなんだよ!」
朝からBLの説明はしんどいです。
「なんだ、ミハイルくんも私の同人活動に興味あるの?」
目を輝かせる腐女子。
「え? 興味っていうか……そのタクトがやることなら知りたい…かな?」
頬を赤く染めるヤンキー。
だが、お前が知りたいのものは恥じるものではない。
全力で逃げるべきものだ。
興味本位で立ち入るな、死ぬぞ。
「フフッ、ミハイルくんも私の『国境なき同人活動』に参加したいのね!」
眼鏡が怪しく光る。
「ほ、ほのか? なんか怖いよ?」
伝説のヤンキーも腐女子の変態オーラには勝てないようだ。
「なら、3人で行きましょ! コミケに!」
「こ、こみけ? なにそれ?」
ほらぁ、この子はピュアなんだからやめてくれる?
うちの子はまだ汚れてないのよ、どっかほかでやってくれないかしら。
「大丈夫、私に任せて。幼稚園のころからコミケに出入りしてるからね」
ヤバいよ、この人イッちゃってるんですけど。
「ふーん、小さな子でも気軽に遊びにいけるところなんだ……」
ダメだって! それ幼児虐待!
「そうそう、なんだったら妊婦さんにもオススメ!」
酷い胎教だ。
「じゃあ遊園地みたいなところ?」
首をかしげるミハイル。
「いい例えだね。そうだよ、ミハイルくん。君も行けばわかるよ。コミケの素晴らしさが!」
頭痛い。
「タクト、もちろんオレも行っていいよな☆」
テンション高いな。
どうしたものか……。
「止めてもついてくるんだろ? 俺は構わんよ、正しヴィッキーちゃんに許可をもらえ」
あのねーちゃんがコミケの存在を知っているとは思えんが。
「わかった! 帰ったらねーちゃんに頼むよ!」
「フッ、これでまた一人、落ちたか……」
なに格好つけてるんだ。この変態が。
しばらく電車に揺られてその後もほのかとミハイルは雑談で盛り上がっていた。
というか、ほのかが一方的にコミケの知識をひけらかしてるだけだが。
ズボンのポケットに入っていたスマホが振動する。
メールが一件。
宗像先生と学校に残った赤坂 ひなただった。
『センパイ、酷いじゃないですか! トイレで全身洗われましたよ!』
草。マジでやられたんだ。
さらにもう一件。
『罪滅ぼししてください! 明後日、一緒に博多どんたくに行きますよ! 取材です!』
ええ……ゴールデンウィークなのに俺には休みがないんですか?