「兄貴の世界が見えなくなったから、目の疲れも減ったでしょ?」

「うん。……ただ、日課みたいになってたから少し寂しい気はするけどね」


そうは言うけれど、ルカの目が休まらない状態が続くのなら、僕は兄貴を恨む事になってただろうから、見えなくなってくれて良かったって思う。


「兄貴が見てきた世界は見えなくなっても、これからはルカは自分の生きる世界を映していけばいいんだよ」

「……じゃあ、ずっと悠真君が見ている景色と同じものを映し続けるよ。悠真君の隣で」


ルカはそう言って僕の手をギュッと握りしめる。

ドキッとしながら僕はルカの方を向いた。


「……大事な時に大事な言葉を言えないチキンな僕でもいいの?」

「悠真君はチキンなんかじゃないよ。いつでも何が起きても平然と、物事を決められる人なんて、物語の中だけだよ。悠真君は悠真君らしく生きていけばいいんだよ。私はそんな悠真君の事が大好きだから」


微笑むルカの瞳の中に映る僕。

フッと笑った後、ルカの手を離して僕はカバンの中からピンクのリボンがついたラッピングを取り出す。


「……これ、ホワイトデーには早いけど、お返し。キャンディとマカロンが入ってる」

「……ちゃんと意味、わかってるよね?」


差し出した物をそっと受け取りながらルカがいたずらっぽく微笑みながら聞く。

バレンタインに贈ったキャンディの意味を知っているかと問われた時の表情と同じだ。

柄にもなく緊張して、コホンと僕は咳ばらいをする。