ハッとして顔を上げると、ルカも深澤先生も父さんも母さんも、誰もが驚愕の表情で一点を見つめていた。

僕はゆっくりと体を起こしながら、そちらの方に視線を移した。


「斗真……っ!」

「あ、兄貴……?」


夢でも見ているのだろうか?

信じられない事に、流れ落ちたルカの涙が、薄くぼんやりとした兄貴の姿に変化したのだ。

それを見た深澤先生が、真っ先に兄貴の名を叫ぶ。

それに続いた僕の声はかすれていた。


「斗真……! 斗真なの?!」


泣き崩れる母さんの肩を抱きかかえる父さん。

切なげに微笑む兄貴は確かに僕の名を口にした。


『悠真、何もしてやれなくてごめんな? 気付いていたのに何をしてやればいいのかわかってやれなくて』

「ち、違う! 僕が拒絶しただけなんだよ! 兄貴に八つ当たりして、環境を変えようと自分で努力なんかした事は一度も無かった。なのに、僕は兄貴に……」


涙でグシャグシャになった僕の頭に兄貴はそっと手をのせた。

その兄貴の腕を掴もうとしたけれど、実体化していないから、虚しくすり抜け、掴む事が出来なかった。

ただあるのは、フワッとした優しく温かい空気だけ。