何も知らなくて当たり前だ。

だって、何も話していないし僕の話なんて聞く気すらないだろ?

現に父さんも母さんも、先生とルカには目を合わせたけれど、僕とは目を合わせなかった。

先生は父さんに案内され、和室に先に入って行った。

母さんも後に続き、その後をルカ、最後を僕が歩いて和室へと入る。

初めて遺影の兄貴を見たルカは、持っていたカバンの持ち手をギュッと握りしめた。


「初めまして、白石琉花です。……あなたのおかげで私は日常生活を取り戻す事ができました。本当にありがとうございます」

「白石……」


兄貴に向かって手を合わせながら静かに言ったルカに、焼香を済ませた先生が驚いた表情で振り返り、ルカを見上げた。

父さんと母さんはルカの言葉の意味がわからなかったみたいで、キョトンとした顔で顔を見合わせている。

するとルカはカバンの中から便箋を取り出し、祭壇にそっと置いた。

そばに積み上げられているものと同じ、赤いギンガムチェックの便箋。

それを見た瞬間、両親の目が同時に見開いたのがわかった。