そうだとしても、兄貴が何を伝えたいのかが全くわからない。


「じゃあ、行こうか」


準備室から出て来た先生は、黒のスーツに黒のネクタイを締めていた。

中学の時の担任なんか一切来ないのに、一年しか受け持ってないこの先生は月命日に来るわ、僕の担任になるわで、一体何なんだろうな。

そうは思うけれど、兄貴の事を家族以外で覚えていてくれる人がいるという事は、素直に嬉しかった。



深澤先生の車で学校から僕の家まで20分ほど。

電車で帰って来るより遥かに早い。


「あの、私まで乗せてもらってありがとうございました。じゃあ、悠真君、またね」


車を降りるなりルカが先生にお礼を言い、僕に手を振って立ち去ろうとしたので、思わず腕を掴んで彼女を引き留める。


「……ルカも兄貴に会っていきなよ。ルール違反になっちゃうのかもしれないけど、そんな事どうでもいい。だって、兄貴がルカに自分の世界を見せていたのなら、ルカがここに来るのを兄貴が望んだはずだから」


そう。

どこの誰かわからないまま、映す事なんて簡単だった。

でも、美浜海岸駅を見せて制服まで映したのなら、どこの誰かまで調べて見つけて欲しかったという事。