「ううん。まだ見えるよ」

「……え?」


どういう事だよ?

兄貴が僕に何かを伝えたくて、角膜移植したルカに兄貴の世界を見せてくれていたんじゃないのか?

目的が果たされたんだから、見えなくなるものじゃないのか?

それとも、伝えたかった事は違うのか?


「悠真君が怒ってるシーンは見なかったよ。あればかり見てたから、意外だった。もしかしたら、伝えたかった事って、悠真君に怒ってないって事と、もう一つあるのかもしれない」

「もう一つって……」

「久しぶりに見たシーンがあるの」


戸惑う僕に向かって、ルカが手を差し出す。

その手のひらの上には『しあわせを呼ぶ砂』のキーホルダーがのせられている。

昨日、工藤さんに引っ張られてカバンからはずれ、体育倉庫に投げ捨てられたやつだ。

ルカが発狂して体育倉庫から助け出した後に僕が拾って返した。


「これがどうかした?」

「角膜移植して一番最初に見えたシーンがこの『しあわせを呼ぶ砂』だったの」


……は?

つまり、兄貴はこのキーホルダーを目にしているという事?