グッと袖口で涙をぬぐい、思わず僕は笑ってしまった。

あの兄貴にもしかして、先生はセクシー女優談義をしたのか?

それとも、おススメの映像作品を紹介したのか?

ちなみに兄貴の葬儀の後、不登校気味になっていた僕に深澤先生はこのどちらもやらかしてくれた。

全く興味がわかなかった僕に、先生はチッと舌打ちしてたけど。

その時、兄貴はどんな反応をしたんだろう?

兄貴ともっといろんな事、話したかったな……。

後悔しても、もうその時間を取り戻す事はできないけれど。



「長居してすみませんでした」

「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました」


ルカの家を出ると、すでに外は暗くなっていた。

先生が丁寧にルカの母親に向かって頭を下げる。


「悠真君、今日は本当にありがとう。話せてよかった」

「僕の方こそありがとう。色々と情報量が多すぎて、まだ混乱してるけど、兄貴が僕を恨んでるって思うのはやめた」

「うん、それでいいんだよ」

「なんか、巻き込んじゃって悩ませちゃってごめん。でも、もう僕は大丈夫だから、ルカは自分の人生大事にしてよ」

「自分の人生大事にするけど、悠真君の事も大事に想うよ?」

「は?」


ルカ、人の話をちゃんと聞いてたか?