怒っている『彼』が何を言っているのか知るために、読唇術で何とか言葉を拾おうとした。

けれど、怒っているせいで相当早口だった『彼』の言葉を拾うには困難を極めた上に、パッと場面が切り替わってしまうらしい。

でもそこでは『彼』は怒ってなくて、穏やかな表情で何か楽しそうに話しているとか。

毎日、様々な『彼』の姿が見えるようになり、ルカ自身も表情が明るくなっていくのを両親はハッキリとわかったようだった。

夢と勘違いしていると結論付けた主治医は、夢でなければ、ルカが作り出した幻想じゃないかと心配し、心理テストをいくつか行なったようだった。

けれどどれも正常で安定した精神状態という結果が出たが、あまり例のない案件のため、医者は心療内科医と連携して経過を見ていく事となったらしい。

言い方は悪いけれど、例えるならアサガオの観察みたいな感じだそうだ。

ただルカの話を聞いていた主治医は、次第に思い当たる事がいくつか浮かんできた様子になっていったらしい。

もちろんそれを話す事はしてくれなかったが、おそらくルカの見える物と角膜提供者が結びついたのだろう。

二度と疑いの眼差しを向けられる事はなかったという。