「おぉ、、いない。」

マンションの鍵をカードキーで
開けて、
少しだけ開けたドアから
中を覗いた僕は
思わず、
呟いた。

額にかかる前髪をかき揚げる。

家の中は明かりも付かず
真っ暗で、時折り
外を走る車のライトが
向かいのマンションに
反射をして
窓に光を入れてくるぐらいだ。

「ふいーっ!!」

首のネクタイを緩めながら、
デザインライトを付ける。

途端に眩しい光が灯って
僕は少し目を細めた。

キッチリスッキリと
片付けられている
お洒落な
ダイニングキッチンに視線をやり

センスいい
リビングのソファーに
ビジネス鞄を置く。

妻が出掛けているのを
良い事にそのまま、
キッチンの水道で手を洗って
うがいをしたら、
次は
モダンテイスト使用の
冷蔵庫に手をかける。

中からミネラルウォーターを
取り出した僕は、
妻にいつも
嫌がられる行為、

直でペットボトルに口をつけて
一気にそれを
水を飲んだ。

『ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ、』

「ふー!、、ん?、」

中身を空にした僕は、
ペットボトルを
グシャグシャと潰ぶす。
と、
ダイニングテーブルの上にある
白い紙を
見つけた。

「まさか、、」

薄っぺらな白い紙に、
恐る恐る、、手を伸ばして
しっかり視界に捉えれば

予感した通りの

離婚届。

「バレた!、マジか!ウソだろ」

ったく。

「いつからだよ、マジーな。」

そもそも
昨日の夜を帰らなかった訳だが。

「しくったか。」

アリバイ工作とか、
完璧だったはずなんだよなぁ。

「・・・とりあえず、電話だな。
てか、これ実家帰ります!
みたいなヤツかよ?やべー。」

僕は、スーツの内ポケットから
電話を出してコールする。

もちろん、
この離婚届を出して行った
妻にだ。

僕は妻には頭が上がらない。

何せ、
自分が務める企業会長の娘
だからだ。
実家=会長んちになる。

これは果てしなくヤバイ。

僕は、未だ鳴り響くコール音に
苛立ちながら

離婚届を手に、
無駄に広いリビングを右往左往
していた。