美桜は今の状態を不思議に思う。敦斗のことがなければこんなふうに心春と話すことも二人で出かけることもなかっただろう。敦斗の好きな人、と思うとどうしても胸は痛む。けれどそれはそれとして、いつの間にか心春のことを好意的に見ている自分にも気づいていた。誘われるのも声をかけられるのも嫌じゃない。敦斗のことがなければ友達になれたんじゃないだろうか、そんな考えが頭を過る。敦斗のことがなければ、話さなかったかもしれないということを棚上げして。
 一歩、また一歩と前に進む。あと二人で美桜たちの順番が来る、というときに心春が口を開いた。

「美桜ちゃんさ、最近明るくなったよね」
「え?」
「自分では気づいてないかもしれないけど、前よりも凄く楽しそう」
「そう、かな」
「そうだよ」

 そんなふうに言われると思っていなかった。楽しそう、とか明るくなったと言われてもそんな自覚はこれっぽっちもない。

「うーん、自分ではわかんない。でももし明るくなったって思ってくれるならそれは上羽さんのおかげじゃないかな」
「私の?」
「そう。教室でも声をかけてくれたり、今日だって誘ってくれたりして」

 気を遣ってくれるから。そう続けようとして美桜は口ごもった。けれど、心春にはバレバレだったようで「気遣ってくれるから?」と聞き返されてしまう。どうしようか迷ったあげく、美桜は素直に頷いた。そんな美桜に、心春は前に進みながら深いため息を吐いた。

「美桜ちゃんは私のおかげで明るくなったんだって言うのかもしれないけど、私は違うと思うよ」
「え?」
「私だって以前のような美桜ちゃんなら声、かけられなかったと思う。自分以外の人間を全て拒絶して背を向けていた美桜ちゃんなら」

 心春の口から語られた美桜は、まさしく一ヶ月ほど前までの、敦斗が死ぬ前の自分の姿だった。

「前も言ったと思うけど、あの頃の美桜ちゃんにも声かけようとしたけど、どうしてもかけられなかった。それに前ならもし私が声かけてたとしてもこんなふうに一緒に来たりはしなかったでしょ?」

 心春の問いかけに、美桜は素直に頷く。一ヶ月前に自分であれば、心春から誘われたとしても決してついてくることはなかった。それが例えティラミスアイスだったとしても。