翌日、私は登校するなり、
「梶君、梶君!」
 興奮気味に梶君に声をかけた。
「おはよう。蒼井さん。今朝はテンション高いね。どうしたの?」
 不思議そうな梶君に、
「昨日、駅前の本屋さんで霧島悠のサイン会があるってポスターを見たんだ! 今週の日曜日だって! ねえ、梶君も一緒に行かない?」
 と、弾んだ声で教える。
「サイン会?」
 梶君は、顔を上げると、眉間に皺を寄せた。
「……行くの?」
「行くよ! 当り前じゃない! 大好きな作家さんだもん」
 私は身を乗り出して頷いた。
 梶君はなぜか黙り込んでしまったけれど、
「梶君も行こうよ。ファンだったよね?」
 もう一度誘うと、
「いや、俺はいい」
 素っ気ない答えが返ってきた。
「えーっ、なんで? 作家さんに会える貴重な機会なのに」
「やめておけば。実際に会うと、がっかりするかもよ」
 梶君はなぜか意地悪なことを言ってくる。
「どうしてそんなこと言うの? せっかく、楽しみにしてるのに」
 ぷうっと頬を膨らませたら、梶君は、ぷっと噴き出した。
「……フグみたい。変な顔」
「はぁ?」
 サイン会に行くのはやめておけと言うし、フグみたいだなんて言うし、私はムッとして不機嫌な声を出した。
「今日の梶君、感じ悪い」
 じろりと睨みつける。梶君は私の言葉に気を悪くしたのか、
「別にいつも通りだよ」
 と素っ気ない口調で言った。
 私は、ぷんぷんしながら自分の椅子に座ると、カバンを机に掛け、前を向いた。