四月。校門の前の桜の木は、満開に花を咲かせている。
 それを廊下の窓から眺めていると、登校してきた梶君が、
「おはよう、蒼井さん」
 と声をかけてきた。
「おはよう、梶君!」
「桜を見ていたの?」
「うん。綺麗だなって思って」
 二年生になってクラス替えがあり、残念なことに、私と梶君は離ればなれになってしまった。
 梶君は私の隣まで来ると、同じように窓の外を眺めた。前髪を短く切った梶君の瞳に見惚れていると、
「どうかした?」
 私の視線に気付いたのか、梶君がこちらを向いた。
「今朝は、梶君に報告があって待ってたんだ」
 私は梶君を見つめていたことが気恥ずかしくて、慌てて本題に入った。
「報告?」
「うん。昨日『若葉小説大賞』の一次選考の発表があったんだけど……」
 そう言うと、梶君の目が真剣になった。
「どうだった?」
「……ダメだった」
 私は「ははっ……」と力なく笑った。きっとダメだろうなとは思っていたけれど、心のどこかで期待をしていたので、ホームページで発表を確認した時は、それなりにショックだった。
「そっか……」
 梶君も残念そうな顔をしている。
「でもね、私、今年も投稿するよ。『若葉小説大賞』」
 一緒にがっかりしてくれた梶君を嬉しく思いながら、私は急いで言葉を続けた。
「霧島悠の本と一緒の棚に並ぶまでは、諦めないもん」
 胸を張って見せると、梶君は一瞬きょとんとした後、ぷっと噴き出した。
「俺の本と同じ棚に並びたいの?」
「もう! 笑わないでよ。私の夢なんだから」
 梶君の腕をぽかぽかと殴ったら、彼はますます面白そうに笑った。
「痛いよ、蒼井さん」
「梶君が意地悪なことを言うから!」
 ぷんと頬を膨らませる。
 梶君は私の腕をそっと握って押さえると、
「じゃあ、これからも一緒に書こうよ」
 と囁いた。私の顔をのぞき込むように見て、にっこりと微笑む。
 その笑顔につられるように、私も笑顔を浮かべると、
「うん。一緒に書きたい」
 と頷いた。
 春のあたたかな風が窓から吹き込んで、桜の花びらを運んで来た。私の髪が巻き上がり、梶君の前髪がふわりと揺れる。
 いつまでも、君と一緒に紡いでいきたい。虹色の言の葉を。