十二月二十三日。部活の時間。図書室の定位置で、私と梶君は向かい合わせに座っていた。梶君は今日も真剣な表情で難しそうな分厚い本を読んでいて、時折、ノートにメモを取っている。新作を書くために、調べものをしているのかもしれない。
私は『公募ガイド』を見ながら、『若葉小説大賞』の投稿用の封筒に宛名を書き込んでいた。丁寧な文字で住所を書きながら、梶君の方をちらちらと見る。先程からずっと話しかけるタイミングを狙っているのだけど、集中している梶君に声をかける隙がない。
梶君は、私の視線に気が付いたのか、
「どうかした?」
と、顔を上げた。ようやく、話しかけるタイミングができて、私は、
「あのね、梶君」
と彼の名前を呼んだ。
「小説、完成したの。明日、郵便局に持って行って、送ろうと思ってるの。でも、一番に、梶君に読んでもらいたいんだ」
思い切ってお願いをすると、梶君は私を見て、
「もちろん。蒼井さん、何も言わないから、どうなったんだろう、完成したのかなって心配してた」
と微笑んだ。
私はカバンの中から、大きなクリップで留めた紙の束を取り出すと、おずおずと梶君に差し出した。
お父さんにノートパソコンを借りて入力し、プリンターで綺麗に打ち出した原稿は、百五十枚ある。
ずっしりとした重さのある紙の束を受け取った梶君は、
「超大作だね」
と目を丸くした。
「うん。超大作だよ」
梶君の言葉を受けて、私も同じように返す。
(本当に、私の想いをありったけ込めた超大作なんだよ)
「今、読んでいい?」
そう言いながら、すでに紙をめくり始めた梶君を見て、私は慌てて立ち上がった。
「わ、私、今日は用事があるから、これで帰るね」
「えっ? 用事?」
「うん。お母さんにお使い頼まれてて」
本当はお使いなんて頼まれていない。
ただ、梶君が目の前で私の小説を読むところを、恥ずかしくて見ていられないだけだ。
「そうなんだ。じゃあ、急いで帰らないと。これは明日返すよ」
「返さなくていい。投稿する分は、今夜、また印刷するから」
「そう?」
私が部活を早退する理由が嘘だと疑う様子もなく、梶君は、にこりと笑った。
私は、
「バイバイ」
と手を振ると、カバンを取り上げ、図書室の扉へと向かった。
廊下に出て、ふと、不安になる。今、私の小説を読んでくれている梶君は、一体どんな顔をしているのだろう。
(どうか、梶君が少しでも、私の小説を面白いと思ってくれますように)
私は心の中でそう願った。
私は『公募ガイド』を見ながら、『若葉小説大賞』の投稿用の封筒に宛名を書き込んでいた。丁寧な文字で住所を書きながら、梶君の方をちらちらと見る。先程からずっと話しかけるタイミングを狙っているのだけど、集中している梶君に声をかける隙がない。
梶君は、私の視線に気が付いたのか、
「どうかした?」
と、顔を上げた。ようやく、話しかけるタイミングができて、私は、
「あのね、梶君」
と彼の名前を呼んだ。
「小説、完成したの。明日、郵便局に持って行って、送ろうと思ってるの。でも、一番に、梶君に読んでもらいたいんだ」
思い切ってお願いをすると、梶君は私を見て、
「もちろん。蒼井さん、何も言わないから、どうなったんだろう、完成したのかなって心配してた」
と微笑んだ。
私はカバンの中から、大きなクリップで留めた紙の束を取り出すと、おずおずと梶君に差し出した。
お父さんにノートパソコンを借りて入力し、プリンターで綺麗に打ち出した原稿は、百五十枚ある。
ずっしりとした重さのある紙の束を受け取った梶君は、
「超大作だね」
と目を丸くした。
「うん。超大作だよ」
梶君の言葉を受けて、私も同じように返す。
(本当に、私の想いをありったけ込めた超大作なんだよ)
「今、読んでいい?」
そう言いながら、すでに紙をめくり始めた梶君を見て、私は慌てて立ち上がった。
「わ、私、今日は用事があるから、これで帰るね」
「えっ? 用事?」
「うん。お母さんにお使い頼まれてて」
本当はお使いなんて頼まれていない。
ただ、梶君が目の前で私の小説を読むところを、恥ずかしくて見ていられないだけだ。
「そうなんだ。じゃあ、急いで帰らないと。これは明日返すよ」
「返さなくていい。投稿する分は、今夜、また印刷するから」
「そう?」
私が部活を早退する理由が嘘だと疑う様子もなく、梶君は、にこりと笑った。
私は、
「バイバイ」
と手を振ると、カバンを取り上げ、図書室の扉へと向かった。
廊下に出て、ふと、不安になる。今、私の小説を読んでくれている梶君は、一体どんな顔をしているのだろう。
(どうか、梶君が少しでも、私の小説を面白いと思ってくれますように)
私は心の中でそう願った。