勇気の出ない俺を、弱虫で父親の操り人形みたいになっていた俺を、どうにかして人間にしようと。自分の命を粗末にしないようにしようとしてくれた。
 俺はそんな零次に、命の恩人で、どんなに感謝してもしきれないくらい沢山のことを教えてくれたあいつに、何も返せてない。
 それなのにお前は、何も言わずにいなくなるって言うのかよ。

 なぁ、零次、俺自分を大切にするよ。
 もう二度と死のうとしたりしない。
 ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと学校行くよ。何もかも投げやりにやったりしないで、ちゃんと生きるよ。
 命を粗末にしないで、ちゃんと生きるよ。
 そう約束するから、帰ってこいよ。いつもみたいに、笑って俺に声をかけてくれよ。でないと俺、笑えない。お前みたいに、いつも元気に笑えないよ。
 命を大事にできないよ。お前がいなきゃ。

「うっ、うぅ……」
 謝るから。
 命を大切にするのが遅すぎるって言うなら、謝るから。土下座でも何でもして謝るから。それでもダメだって言うなら、お前が言うこと何でもするから。
 お願いだから、帰ってこいよ。
 お前がいないと、ダメなんだよ。
 お前がいないと、この世界は俺にとっていつまでも地獄のままなんだよ。
 頼むから、帰ってきてくれよ。
 俺は赤ん坊みたいに声を上げて、馬鹿みたいに泣いた。
 俺の声に気づいた零次が戻ってきてくれるのを願って。
「うっ、うっ、うっ、あああああ!!」
 声が枯れ果てるまで、俺は泣いた。
 でもそんなことをしても、零次は帰ってこなかった。
 俺だけの神様は消えた。――父親の呪縛から解放された嬉しさと、酷い絶望を俺に味合わせて。