「はあ? お前、母さんが払わないっていったらどうするつもりだったんだよ!」
俺は声を荒らげて叫んだ。
「昨日の電話の時点で、海里の母さんが悪い人じゃないのは分かったから、そうなることはないと思ってた。……子供の無事を心配する人がわるいひとなわけないだろ?」
「だからって、なんでそこまでしたんだよ」
頭が可笑しい。
母さんが学費を払うという保障なんてどこにもなかったのにあんなことをしたなんて、本当におかしい。
「えーだって、ああいえば、海里のこと本当に大事に思ってるなら、必ず学費払うって言ってくれると思ったから」
「……お前、変だよ。すげぇ変」
「変じゃねえよ。海里の人生が良くなるよう行動してるだけ」
「だからそれが変だって言ってんだよ!」
「変じゃねえよ。だって俺、海里の事すげぇ大事だし」
「……ありが……とうっ!」
俺は涙を拭いながら、礼を言った。
「たっく。しょうがねぇな」
零次は呆れ顔で笑った。
「零次君、わたしからも言わせて。海里と友達になってくれて、本当にありがとう」
「いえいえ。……お母さん、お仕事頑張ってくださいね。それでいつか、コイツを養えるようになってください。それまでは、俺がきちんと面倒見ますから」
「ええ、そうさせてもらうわ。本当にありがとう。海里と友達になってくれて。それじゃあ、私はそろそろ失礼するわね」
母さんは笑って席を立った。
「あ、母さん」
俺は慌てて涙を拭って、母さんに声をかける。
「ん? どうしたの海里?」
「……学費、払うって言ってくれてありがとう。……嬉しかった」
俺は、小さい声で礼を言った。
「お礼を言うのは私の方よ海里。学費を払わせてくれて、本当にありがとう。零次くんと仲良くね」
母さんは目を見開いた後、俺を再び抱きしめた。
一年半ぶりに、抱擁を残酷じゃないと思った。
抱きしめられても、辛いと感じない。
「……うん、仲良くするよ。母さん、元気でね」
母さんの背中に腕を回して、俺は囁く。
「……ええ。海里も、ずっと元気でいてね」
「……うん」
俺が頷くと、母さんは背中から手を離して、笑ってテラスを去っていった。