「じゃあ、どんどん行くぞ!!」
零次は心の底から嬉しそうに口元を綻ばせると、俺の右手を握って、どんどん水族館の中を進み始めた。
零次にあきれながらついていくと、円柱の形の水槽の中に、くらげが何十体もいるのが目に入った。
どうやらここは、クラゲのコーナーらしい。
「えっ?」
クラゲの色が、急に赤に変わった。
「れっ、零次、これ、どうなってんの?」
「ん? もしかして海里、クラゲの色が変わるの、見んの初めて? あれだよあれ」
零次はそう言って、上を指さす。
上を見ると、赤い照明が至る所に置かれていた。
「あれで赤くなってんだよ。あの照明、時間で色が変わるんだ。ほらな」
照明が青に変わって、水槽にいるクラゲの色が赤色から青色に変わる。
「……すごい」
「だろ? クラゲって透明だから、照明と同じ色になんだよ。めっちゃ面白いよな」
「うん、面白い! テレビとかだと透明なクラゲしか見てなかったから」
「ククッ。そうか。海里って結構子供っぽいんだな」
俺が頷くと、零次は喉を鳴らして笑った。
「こっ、子供っぽい?」
「ああ。クラゲの色が変わるだけで大騒ぎしたり、魚がそばに来るだけで喜んだりはしゃいだりしてさ。覚めてるのかと思ったら、意外と子供みてぇなとこあるよな」
口の前に手をやって楽しそうに笑いながら、零次は言う。
「……馬鹿にしてんのか?」
とても馬鹿にされている感じがして、俺は思わず眉間に皺をよせた。
「いや? 安心してる。お前にそういう何かを見て笑ったり、驚いたりする素直で子供っぽいところがあってよかった。そういうところが、虐待のせいでなくなったりしなくてよかった」
零次は首を振って、とても嬉しそうに口角を上げて笑った。
あまりにまっすぐすぎるその答えに驚いて、俺は言葉を失う。
「子供らしく、楽しく生きようぜ海里。俺らまだ高一なんだしさ! なにもかも諦めたりとかしないでさ!」
零次は俺の火傷してない方の肩に腕をのっけた。
……そうだ、俺はまだ高校一年生だ。
人生を諦めるにはまだまだ早い。早すぎるんだ。
「うんっ!」
俺は思わず零れそうになる涙を必死で堪えて、零次の言葉に頷いた。
「これは平気なんだな?」
俺の肩に乗っけている腕を見ながら、零次はいう。
「……うん。大丈夫、かも」
「そっか。頭までもうちょいだな」
笑いながら、零次は言う。
「ハッ。どんだけ頭撫でたいんだよ」
俺は呆れながらいった。
「えーだって、俺はいつも母親に頭撫でられて安心してたから、海里にもそういうの味わってほしいと思ってさ」
「……ありがとう」
俺は笑って、礼を言った。
その時から、俺は零次を本気で信じることにした。
スパイじゃなくて、本当に死を怖がってて、俺の環境に我慢ならなかったから監視をしたんだと思うことにした。
なんでニ、三日前に初めて話をした俺のことでそんなに怒ってくれるのかとか、カメラをどうやって手に入れたのかとか色々疑問ではあるけれど、とにかくそう思うことにした。零次が必死で俺を笑わせようとしてくれたのと、人生を変えてやるって言ってくれたのに心を動かされたから。