「……あっそう」
 適当に俺は頷く。
「はぁー。なんだよそのどうでもいいみたいな頷き方。萎えるんだけど。こっちは何とかしてお前笑わせようとして冗談言ってんのに、すげえ馬鹿みたいで」
 不服そうに口を尖らせて、阿古羅は拗ねる。
「え? 笑わせようとしてたのか?」
「当たり前だろ! そうじゃなかったらあんなよくわからねぇ自慢しねぇよ!」
 頬を赤くして、阿古羅はつっこむ。
「アハっ、アハハハハハ! なんだよそれ!!」
 そんな必死で俺を笑わせようとしてたのが可笑しくて、俺はつい声を上げて笑った。

 ……ああ、そうか。

 こいつは俺を必死で笑わせようとしてたのか。そのためだけに、ゲーセンでぬいぐるみをとったり、二人でプリとろうっていってきたり、水族館に俺を連れてきたり、くだらない冗談をいってみたりしてたんだ。
 弱みを握るためとかそういう下心なしで、俺を本気で笑わせようとしていたんだ。
 俺はそれに、少しも気づいていなかった。
 環境に絶望しすぎて、こいつがスパイなんじゃないかとか、嫌な想像ばかりしていた。
 阿古羅はこんなに必死で俺を笑わせて、どうにか俺に生きたいって思わせようとしてくれていたのに。
 俺はこいつが本当に親父の何十倍も優しくて俺の地獄みたいな世界を本気で壊してくれようとしている可能性を、少しも考えていなかった。
 自己嫌悪と阿古羅への感謝の気持ちが込み上げてきて、俺は思わず涙腺が緩んだ。

「え、ちょっ? 海里?」
 涙を流し始めた俺を見て、阿古羅はあたふたする。
「……だよ」
「え?」
「だから、嬉し涙だよ!」
 投げやりに言って、涙を流しながら俺は笑った。
「嘘? マジで?」
「ああ。……水族館に来れて嬉しい。楽しいよ、零次」
 涙を拭いながら、俺は笑った。
 阿古羅の名前を、親愛の意味を込めて呼んだ。
 なんでスパイなわけでもないのに監視カメラをつけたんだとか俺の為にここまでするんだとか、なんであんなに俺の為に怒ってくれたんだとかそういう疑問はとりあえず置いといて、零次と生きてみようと思ったから。……こいつと生きたら、本当に人生が変わるんじゃないかと思ったから。