「はぁ……」
誰もいない安心感からか、思わずため息が零れる。
俺は砂浜に座って、海を眺めた。
青くて澄んだ透明感のある色をしている。
俺の心とも、俺の家族とも大違いだ。
俺は立ち上がると、靴を脱ぎもしないで海に入った。
「海里!」
一歩一歩確実に海を進んでいると、背後から信じがたい声が聞こえた。
――俺の名を呼ぶ阿古羅の声。
ゆっくりと後ろに振り向くと、本当に阿古羅がいた。
「阿古羅? なんで、お前がここに?」
どうしてバレたんだ。江の島の話なんて一言もしてないのに。
「さぁ? なんでだろうな。一つ言えることは、人から物をもらう時は、それがどんなものが調べた方がいいとってことだな」
……ぬいぐるみのことか?
「これになんの問題があんだよ?」
見たところぬいぐるみは何の問題もなさそうだった。
「ほら」
そういうと、阿古羅はズボンのポケットから全く同じぬいぐるみを取り出して、俺に向かって投げてきた。俺は手を伸ばしてそれを受け取った。
「両方の目触ってみ」
目を触ってみると、昨日阿古羅が俺にくれた方のぬいぐるみの左目に違和感があった。何かと思って左目をぐいぐい引っ張って見ると、目ん玉じゃなくて、小型のカメラが出てきた。
「お前、俺のこと監視してたのか?」
信じられなくて、俺は大きな声で叫んだ。
「ああ。俺は昨日、あらかじめスクバに入れてたカメラ付きのぬいぐるみと、ゲーセンで撮った普通のぬいぐるみを、お前がスマフォを見てた時にすり替えたんだよ」
阿古羅はわるびれもなく言い放った。
「なっ、なんでそこまで」
後ずさりながら、怯えた声を出して言う。
ありえない。度が過ぎている。
死を怖がってて、約束をしたとしてもいくらなんでも限度がある。
「何で? 我慢ならなかったからだよ! お前があんなクソ親に操られてるのも、その異常な環境をお前が受け入れようとしてるのにも! だからお前に反抗しろって、自分の命を大切にしろって言ったし、監視もした! 口約束だけだと不安だったから! あんなクソ親のせいでお前が死ぬのなんて、絶対に嫌だったから!」
阿古羅は大声で荒い息を吐きながら一気にしゃべった。その声は、昨日の放課後にきいた大声よりも何十倍も大きくて、威圧感のある声だった。
「阿古羅……」
俺は阿古羅の剣幕に驚いて、ただただ名前を呼ぶことしかできなかった。