坂本の家に嫁いでから、数ヶ月が過ぎた。

凍てつくような冬の空気も緩み、日差しに暖かさが宿る。

私がこの家にいることにも慣れてきたのか、晋太郎さんは奥から出て、ふらふらと歩き回ることが増えた。

以前よりはずっと、顔を合わす機会も増えている。

時折話しかけられたりなんかして、言葉も交わす。

奥の部屋に籠もっていた頃には、居るか居ないかも分からないような人だったのに、今は土間の床板に腰掛け、スルメをかじりながら私たちの様子を見ていた。

義母は私と奉公人まで総動員して、意気揚々とたすきをかける。

「そんなに一度にこしらえて、大丈夫なのですか?」

「面倒はいっぺんに済ませてしまうのが、コツなのです」

いただいたカブやらレンコンやらを一度に全部煮てしまって、天日に干し、漬物や砂糖漬けにしてしまおうという算段だ。

お義母さまはいつも以上に意気込んでいる。

「さて、志乃さん。煮付けの前の下準備を教えましょう。これは坂本家の作法なのですから、しっかり覚えてくださいね」

そう言うと義母はまな板を二つ並べ、包丁を置く。

「まずは野菜の切り方からね。これはうちのやり方なのですから、よろしくお願いしますよ」

私もたすきをかけた。

皮をむき、次々と切られてゆく野菜を、見よう見まねで切っていく。

大鍋に放り込んだ。

「先に出汁を取らないのですか?」

「それはいいのよ」

お義母さまには、お義母さまの流儀があるらしい。

「下味をつけると、味が濃くなっちゃいますから」

晋太郎さんは何も言わず、黙々とスルメをかじっている。

湯気の立ちこめる土間は、すっかり騒がしくなった。

天日に干すためのざるを運んだり、漬物を仕込む樽や置き石を運んだり。

力仕事は晋太郎さんも、なんとなく手伝っている。