俺は中学に入学してから写真部に入った。
 普段は部室の中で静物を撮ったり、部員同士で写真を撮りあったり、それ以外にも自由課題で部活の時間以外の時に気が向いたものの写真を撮ったりして毎日を過ごした。
 自由課題の写真は、友人にモデルになってもらったものが多い。風景や静物を撮るのも楽しいけれど、この学校に入ってなにかと良くしてくれている友人の記録を残しておきたいという気持ちも、俺の中にあったからだと思う。
 でも、友人の写真を撮っていざ現像してみると、どうにもイメージが違う。はじめは構図が悪いのかと四苦八苦したけれども、どうにも構図のせいではなさそうだった。
 そのことを顧問の先生に相談すると、構図が原因でないのなら、現像したときの色味がイメージ通りに行っていないのではないかと言われた。
 なるほど、色味か。写真の構図を取ることにはだいぶ慣れたけれども、現像の腕はまだまだだという自覚がある。
 これから回数をこなして現像に慣れて、そうしたらイメージ通りの色を出せるようになるだろうか。俺にとって大切な友人の姿を、ありのままに残せるだろうか。そのことに思いを馳せながら、俺日々部活に打ち込んだ。
 そして中学時代の三年間はあっという間に過ぎていった。俺は中学在学中に、結局イメージ通りの色を出せるほどの腕になることはできなかった。
 顧問の先生はそんなにすぐになんでも上手くできるものではないと言っていたけれども、友人の姿をそのままに残せないという事実は、俺の心にモヤモヤを残していた。

 そして高校に入って。俺と友人はあいかわらず同じ学校で、あいかわらず時々写真のモデルをやってもらっていた。
 そう、俺は高校でも写真部に入ったのだ。
 写真の腕を磨きたい。まだまだ追求したい。その思いを捨てられなかったのだ。
 高校の写真部に入って、中学の時のように自分で自分の写真を現像する。顧問の先生には手慣れていて上出来だと褒められたけれども、それでも俺は自分の理想の色を出せていない。自分の技術に納得はいっていなかった。
 そんなある日のこと、ある女子の先輩の写真が目に入った。その先輩は、あまり先生に構図を褒められることがないせいか、自分で撮った写真を隠しがちだ。だから、もしかしたらその時に先輩の写真を見たのははじめてだったかもしれない。
 たしかに、先輩の写真はうまい構図ではない。けれども、俺の写真にはない圧倒的な魅力があった。その魅力というのは、色だ。俺がいままでどれだけ追求してきても辿り着けなかったリアルな色味。ただきれいなだけじゃない、空気や質感を的確に、明確に表現したその色は、ただカメラの性能から得られるだけのものではないように感じた。
 もしやと思い、俺は先輩に頼み込んで、友人を撮った写真を先輩に現像してもらった。そしたらどうだろう、先輩は俺が現像したものよりもはるかに、俺の友人のイメージを的確に掴んでいる色味で写真を現像してくれた。
 先輩は友人のことを知らないはずだ。だから、現像の時に余計な小細工はできないだろう。だから、先輩はその現像の腕前で誠実すぎるほどにありのままの姿を表したのだ。
 その腕前に、俺は一目で先輩に憧れを抱いた。俺も先輩のように現像できるようになりたい。ありのままのリアルな色を出せるようになりたい。強くそう思った。
 先輩に現像のしかたを教えてくれと頼むと、先輩は照れたように笑って俺の方が上手いだろうにと言う。でも、現実問題現像に関しては先輩の方がはるかにうまいのだ。
 それからというもの、写真の現像をするときは先輩に何度も教えてもらって、試行錯誤を繰り返した。でも、どんなに先輩に教えてもらっても先輩の腕前には追いつけなかった。
 そんな日々を送る中で俺達写真部は何度か写真のコンテストに出品した。俺は何度か入選したりもしたけれども、先輩は一度も入選することはできなかった。
 それでも先輩はカメラを手放すことはしなかったし、ずっと黙々と写真を現像し続けた。先輩はその間にどんどん現像の腕を上げて、明確な世界を作り上げていた。
 けれども、そのことはコンテストだけでなく部活の中でも誰にも評価されなかった。

 そんな日々を送って先輩が卒業する日を迎えた。卒業式の後、写真部の部室で別れを惜しむ。そのなかで、先輩が俺にこっそりとこう言った。
「私ね、ずっとあなたに嫉妬してたの」
 その理由は俺にもわかる。後から入った俺が周りに認められていて、先輩は取り残されている気持ちだったのだろう。
 先輩の告白に、俺も思いきって気持ちを言う。
「俺は先輩に憧れてました」
 先輩はびっくりしたような顔をしてから困ったように笑う。まさか俺が先輩に憧れてるなんて思っていなかったのだろう。
 けれどもその憧れが写真に関することだというのはすぐにわかったようで、これからも写真を続けるのなら、いつでも頼ってくれと連絡先を教えてくれた。
 俺はいつか先輩に追いつくんだ。