そのまま刺繍を進めようかと思ったのだけど、グレイスはふと顔をあげた。布を手にしていたことで思い出したのだ。
昨日、出掛けたときに羽織ったストール。レース素材の薄手のもの。
外の竿にかけたままだった気がする。もしあのままであれば、雨が降ったら濡れてしまうだろう。誰かが取り込んでくれたかもしれないけれど、その保証はない。
よって、グレイスはちょっと様子を見てこようと思った。フレンが居たのならフレンに「ストールは取り込んであるかしら」と訊けば良いのだが、生憎席を外している。それもグレイスの用事で。ふたつ用事を言いつけるのも、と思ってグレイスは立ち上がった。
「どうしたの、グレイス」
マリーがソファに座ったところから見上げてくる、それにグレイスは笑みを返しておいた。
「昨日のストール、出しっぱなしだったかもしれないの。ちょっと見てくるわね」
「あら、それはいけないわ。気をつけてね」
それでグレイスは一人、談話室を出た。廊下を歩く。
廊下の窓から見た外は、だいぶ雲が多くなっていた。昼間なのに薄暗い。
もう降るかもしれないわ。急がないと。
グレイスは急ぎ足で玄関へ向かい、外へ出て、裏に回った。確かここに掛けておいたはずだけど、と物干しが並んでいるところへ向かう。
普段なら遠くから洗濯物がはためいている様子が見えるのだけど、この天気で外に干すはずもない。なにも見えなかった。
そう、なにも、だ。グレイスのストールも見えなかった。
あら、無いわ。誰か取り込んでくれたのかも。
思いつつも、一応ちゃんと確認しておこうとグレイスはもう少し屋敷から離れる。そこで目を丸くしてしまった。
ストールはそこにあった。けれど、樹に引っかかっている。
どうやら風に煽られて飛んで、そこにかかってしまった、という具合だった。
「まぁ……あんなところになんて」
グレイスは独り言を言い、そちらへ近付いた。そう高い樹ではないので手を伸ばせば届くと思ったのだけど。
「ん……っ」
寄ってみれば意外と高いところに引っかかってしまっていたようで、ひょいっと取るというわけにはいかなかった。背伸びをしたけれど、ストールのはしに僅かに手が触れるのみ。掴むには至らない。
昨日、出掛けたときに羽織ったストール。レース素材の薄手のもの。
外の竿にかけたままだった気がする。もしあのままであれば、雨が降ったら濡れてしまうだろう。誰かが取り込んでくれたかもしれないけれど、その保証はない。
よって、グレイスはちょっと様子を見てこようと思った。フレンが居たのならフレンに「ストールは取り込んであるかしら」と訊けば良いのだが、生憎席を外している。それもグレイスの用事で。ふたつ用事を言いつけるのも、と思ってグレイスは立ち上がった。
「どうしたの、グレイス」
マリーがソファに座ったところから見上げてくる、それにグレイスは笑みを返しておいた。
「昨日のストール、出しっぱなしだったかもしれないの。ちょっと見てくるわね」
「あら、それはいけないわ。気をつけてね」
それでグレイスは一人、談話室を出た。廊下を歩く。
廊下の窓から見た外は、だいぶ雲が多くなっていた。昼間なのに薄暗い。
もう降るかもしれないわ。急がないと。
グレイスは急ぎ足で玄関へ向かい、外へ出て、裏に回った。確かここに掛けておいたはずだけど、と物干しが並んでいるところへ向かう。
普段なら遠くから洗濯物がはためいている様子が見えるのだけど、この天気で外に干すはずもない。なにも見えなかった。
そう、なにも、だ。グレイスのストールも見えなかった。
あら、無いわ。誰か取り込んでくれたのかも。
思いつつも、一応ちゃんと確認しておこうとグレイスはもう少し屋敷から離れる。そこで目を丸くしてしまった。
ストールはそこにあった。けれど、樹に引っかかっている。
どうやら風に煽られて飛んで、そこにかかってしまった、という具合だった。
「まぁ……あんなところになんて」
グレイスは独り言を言い、そちらへ近付いた。そう高い樹ではないので手を伸ばせば届くと思ったのだけど。
「ん……っ」
寄ってみれば意外と高いところに引っかかってしまっていたようで、ひょいっと取るというわけにはいかなかった。背伸びをしたけれど、ストールのはしに僅かに手が触れるのみ。掴むには至らない。