真夏のある日。グレイスはマリーと二人でひとつの馬車に乗り、避暑地の別荘へ向かっていた。今回はフレンも別の馬車である。せっかく従姉妹同士二人なのだから、ほかにひとがいないほうが良いと気を使ってくれたのだ。
 使用人たちの乗る馬車のひとつで、おそらくマリーの家の使用人、マリーの従者などと話をしているのだろう。自分の居ないところでのフレンのことも気になったけれど、それは毎回のことなのですぐにマリーとのおしゃべりに話を弾ませてしまった。
 マリーの最近のこと、グレイスの謹慎中のこと……。
 フレンと二人で出掛けたことも話した。そのときマリーに言われたことにはどきっとしてしまったけれど。
「相変わらず仲が良いのね。きょうだいか恋人同士のようね」
 きょうだい、は確かにそうともいえなくない。幼い頃からずっと傍にいたのだから。お世話をしてくれる立場だとはいえ、歳は近いほうだと思う。
 けれど、恋人同士。それは完全に無いのである。
 少なくとも、今のところは。
 ……いえ、これからだって、きっと無いわ。
 グレイスは胸の中で言って、自分のその思考にちくりと胸を痛めた。
 マリーから見えた、そんな関係。本当にあったら良かったのに。
「やぁね、そんなんじゃないって知っているでしょう」
 そう言うしかなかった。それでマリーも「そうよねぇ」と言って、これを終わらせてくれた。
「それで、ダージル様にもお会いしたのでしょう。どうだった?」
 今度は違う意味でどきっとした。少し前にダージルの屋敷にお招きされたこと。マリーも知っているのだ。
 ちなみに今回の小旅行にはダージルも来ることになっていた。
 住まいが少し離れているので、合流することなく、直接別荘まで訪ねてくれる予定である。
 きっとあちらも今、向かっているのだろう。それはそうだろう、これからグレイスにとっては身内、マリーにとっては親戚になるのだ。ここで交流するのが絶好の機会というわけ。
「ええ、楽しかったわ。優しいお方で……」
 グレイスは無難なことを言った。
 とはいえ、嘘ではない。ダージルのことは本当に優しくて良いひとだと思う。
 ただ、犬に対するあの様子は……ちょっと変わっているといえるだろうけれど。