一ヵ月の謹慎も明けて、いよいよマリーの家との小旅行が迫ってきていた。
 謹慎が明けてからグレイスが真っ先にしたことは、フレンとの約束を果たすことであった。
 即ち、二人で出掛けること、である。
 謹慎期間、グレイスは言いつけ通りに大人しく過ごしていた。
 暇な時間を持て余してしまうこともあったので、そういうときには趣味の刺繍に取り組んだ。
 フレンが手に入れてきてくれた上質の絹糸。あれを使って、カフェカーテンを作っていた。布は麻素材で、上等な布ばかり身の周りにあるグレイスにとっては少々慣れないものであったが、なにしろ夏である。こういう素朴な素材を使うのも良いとフレンがアドバイスしてくれたのだ。
 フレンは時間が余ったときなどグレイスのところへやってきて、進捗を見たり教えたりしてくれた。そんな些細なことにすらグレイスは嬉しくなってしまったものだ。
 そして、フレンとの約束でも刺繍関連の店へ行った。街中の素朴な布や糸を扱っている手芸店。二人で布やレースを見た。
 グレイスはこういう店には滅多に来ないので、フレンが色々と教えてくれたのだ。
 そしてグレイスは自分の気に入ったもののほかに、もう一種類布を購入した。
「お嬢様、こういうものを好まれるとは意外ですね」
 不思議そうに言ったフレンに、グレイスは微笑む。
「先のことはフレンに随分迷惑をかけてしまったから、お詫びよ。これでカーテンを作るの」
 グレイスのそれに、フレンは目を丸くした。
「なんと、そんなお気遣い」
「私が作りたいのよ」
 それで押し切ってしまった。フレンはちょっと慌てたようだったけれど、最終的に受け取ってくれる約束をしてくれた。「身に余る光栄です」とは言われたけれど。
 グレイスは別に包んでもらったその布を大事に抱えて、屋敷へ帰った。これは特に頑張って作らなければ、と決意しながら。