「謹慎中とは恐れ入ったわ」
 グレイスの目の前で紅茶のカップを手にしているのはマリー。今日もシックな水色のワンピース姿だ。紅茶を口にしつつ、心底呆れた、という顔をする。
「ええ……まぁ、ちょっと、やりすぎたの」
 居心地が悪い。こんな状況では当たり前だが。グレイスは紅茶に手をつけることなく、もそもそと返事をする。
 今日は従姉妹のマリーが屋敷へ来訪してくれていた。
 本当ならグレイスから出向きたかったのだが、なにしろ謹慎中。手紙でそのことを伝えた時点で既に呆れられた。返信の手紙の中で、だ。
 それでも「では私がお邪魔するわね」とわざわざ来てくれた次第だ。マリーにも申し訳がない。決して近所ではないのに。
「で? なにをしたのかしら」
 けれどマリーはどこかグレイスに近い性質がある。次はその質問が来たが、それはなんだか楽しそうな響きを帯びていた。
 グレイスは苦笑してしまう。そこでやっと紅茶のカップを持ち上げて、ひとくち飲んだ。
 サンルームでのお茶の時間。フレンがマリーを玄関まで迎えに行き、お茶の支度もしてくれたのだが、気の付くことに「では、あとはお二人でごゆっくり」と席を外してくれたのだ。
 フレンはフレンで別の仕事……マリーを送ってきたお付きのひとたちにお茶を出したりするものがあるのかもしれないが。
「ちょっと……街へ」
 マリーは目を丸くする。たとえ性格が少し似ていようとも、マリーはそんなこと、したこともないのだ。少なくとも聞いている限りでは。
「一人でかしら」
「ええ」
「フレンも連れずに?」
「ええ」
 耳に痛かった。けれど肯定するしかない。そしてそれ以上に取り繕う言葉もないのだった。
 しかしマリーは目を丸くしていくつか質問をしてきたものの、グレイスを責めることは言わなかった。
「相変わらず、大胆なことをするものね」
 それだけだった。グレイスの奔放な性格や、いままでも起こしてきた『お転婆』については、いくらか知られているのだ。今回もそのひとつだと思ってくれたようだ。
 まさか、街へ出るのは首尾よくいったものの、そこで悪いひとに捕まって、危険な目に遭いかけたということは言えない。グレイスは黙っておくことにする。