部屋へ戻されて、グレイスはちんまりとソファに腰かけていた。
 フレンはもう少し父と話があると言っていたがそれが終わればこちらへ来るだろう。その来訪を待つように言われていた。
 待つように言われずとも、謹慎は既にはじまっているのだから、グレイスは部屋で静かにしているしかなかったのであるが。
 ぼうっと先程の反省を反芻した。主にこれから来るであろうフレンについて、である。
 公休のフレンがどうして来てくれたのかはわからないが、それだけことが重大であったから呼び出されたのかもしれない。そうであれば、休みを邪魔してしまったことになる。
 それだけでも申し訳ないのに、多大な心配をかけて。
 おまけに男たちにナイフを振るったこと。気分など良くないだろうに。
 フレンのナイフの腕は確かなもので、護身術として身に着けたものだという。それは自分の身を守るものという以上に、グレイスを護るための『護身術』という意味だ。
 でも護身術など使わないほうがいい、使う場面になんてならないほうがいいのだ。それを自分は、自分からそんな危険を冒してしまって。一体どこから謝ればいいのかわからない有様であった。
 あれそれ考えているうちに、扉が鳴った。こんこんと軽い音を立てる。
 来た。フレンだ。
 グレイスは流石にびくりとした。それでも拒むわけにはいかないので、「はい」と返事をする。
 返ってきたのは当たり前のように「私です」というフレンの声。
 どくりと胸が鳴るのを感じる。今はあまり良くない意味、で。
「失礼いたします」
 入ってきたフレンはカートを押していた。お茶の支度が乗っている。
 それを見て、グレイスは理解した。それなりの長さになるのだ、フレンからの『話』は。
 これまでもそうだった。フレンからのお叱りがあるときには、大概紅茶が出てくる。味わう余裕はあまりないのだったが。
「お嬢様、ひとまずお茶でも」
「……ええ」
 からからとカートはグレイスのソファの傍まできて、すぐに紅茶が入った。すでに抽出された紅茶がポットに入っていたらしい。