裂かれたシャツの上にフレンの上着を着せられて、待機していたらしき馬車に乗せられた。そして屋敷へと連れ帰られたのである。
 なにが起こるのかはわかっていた。勿論、父の叱責である。
 それでも服や身がこんな状態だ、一旦部屋に返された。フレンがメイドにグレイスを引き渡す。
 あとはメイドたちの仕事。バスルームへ押し込まれて、服を脱がされて、湯をかけられた。
 街では普通に歩いていただけとはいえ、石壁の穴をくぐったときに地面を這ったので、土が少しくっついていた。まずは汚れを落とすということだ。
「まったく、お嬢様……大胆なことをなさって……」
 中心になってくれている、メイドのリリス。ちょっと呆れたようにグレイスにシャワーの湯をかけていく。
 リリスはじめ、メイドたちにはグレイスが良からぬ男たちに捕まるところだったということは聞かされていないだろう。単に『抜け出して街へ行った』としか把握していないようだった。
 服だって、フレンが「引っかけて破ってしまったそうです」と言い訳してくれたので、それを信じられた模様。
「……ごめんなさい……」
 あたたかい湯は気持ち良かった。グレイスは心がほどけていくのを感じながら、謝った。
「いつぶりでしょうね。お嬢様の『お転婆』は」
 それは今回と同じように、屋敷を抜け出して街へ行ったことを示していた。確かに以前にもあって、そしてそのときもフレン、メイド、そして父に呆れられたものだ。
 いや、父からは呆れるより怒りであったが。娘が危険を冒して街などに行けば当たり前であろうが。