あたたかな体温が伝わってくる。とくとくと速い鼓動も。
 なに、これは、いったい。
 ぼんやりと、グレイスは追いつかない思考の中で呟いた。
「良かった……良かった、です……ご無事で」
 フレンの声は震えていた。涙声にも近い。
 ただ、グレイスはそれをはっきり認識することはなかった。
 彼の腕に抱かれている。そればかりが大きく心と体に迫ってくる。
 どく、どく、と違う意味で心臓が騒ぎだす。熱い血を体中に巡らせるように。
 そのとおりに、かぁっと体が熱くなった。
 そのうち、そっと体は離されてしまった。代わりにフレンの瞳がグレイスを覗き込んでくる。
 グレイスはされるがままになるしかなく、翠色をしたそれをぼんやりと見つめ返した。
「帰りましょう」
 ふっと、フレンの目が緩む。
 その瞳を見て、やっとグレイスにまともな思考が戻ってきたのかもしれない。まだ震えるくちびるを開いて、やっと言葉を押し出した。
「……ごめん、なさい……、フレン」