グレイスの体を抱いてくれたのは、フレン。いつのまにか目の前にやってきていたのだ。
 そのままグレイスの体はゆっくりと地面に下ろされる。地面に叩きつけられなかったことにほっとし、そこでやっとグレイスはこの状況を把握した。
 グレイスの上半身をしっかり支えてくれている、フレン。先程の冷たい目が嘘だったように、普段通りの目をしていた。心配がたっぷり滲んでいたけれど。
「お嬢様」
 フレンの口が動く。グレイスはまだぼんやりとそれを見るしかなかったのだけど、とりあえず、理解した。
 これはフレンだ。まぎれもない、自分の傍にいてくれる、と誓ってくれたフレンだ。
 なにか言おうと思った。くちびるを動かしかけたそのとき。
 ピーッ!
 さっきと同じような笛の音があたりに響いた。グレイスはびくりとしてしまう。
 ばっとそちらを見た。そちらからは、ばたばたと複数の人間の走る音がする。そのひとたちは、どうやらこちらへやってきているようで。すぐに姿が見えた。
 そして勢いよくなにかを突き倒した。またドサッと鈍い音がする。
 それは、じりじり後ずさって逃げようとしていた、肩にナイフを刺された男だったようだ。
 二人の男により抑え込まれて、男は「く、くそ……!」と声を上げた。けれど手負いの身、しかもこれほど多くの人数に囲まれて逃げ出せるはずもない。観念するつもりのようだ。
「アフレイド家のお嬢様への暴行容疑で、貴様を捕縛する」
 黒い服の男が告げる。動きやすそうな服ではあるが、上着はかっちりしていてなんらかの身分があるように見えた。
 グレイスはぼんやりとした中で、なにかきらりと黒い服の男の胸元で光るものを見た。きらりと光ったのはアフレイド領、自警組織のバッジだった。