「そのカバンに入れたんだろう」
 指されるけれど、誤解なのだ。この男たちがどうしてそんな誤解をしたのかわからないけれど、と素直なグレイスは思った。実際はただ、いちゃもんをつけられているだけなのだが。
「あくまで盗ってないって言うなら、中身を見せてくれてもいいよな?」
「こっちに来いよ」
 男たちが次々に言う。こんなふうに責められるようなことを言われたことなどグレイスにはない。どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
 そしてその様子は男たちを調子づかせたらしい。最初に肩に手を乗せてきた男が手を伸ばした。あっと思う間にグレイスの腕が掴まれてしまう。
 痛い、と言うところだった。握りしめるような強い力だったものだから。しかしそんな痛みに構っているどころではなくなった。男がぐいっと捕まえた腕を引っ張ってくる。
 振り払いたかった。けれど男の力が強すぎて少しもがくことしかできなかったうえに、それ以上に恐ろしくなっていた。
 一体なにをされるというのか。お金でもとられるのか、それともどこかに売り飛ばされたり。
 心臓が一気に冷えてくる。そんなグレイスを見て、男たちは楽し気な、いやらしげでもある表情を浮かべて。旅芸人に見入っていてこんな些細なやりとりには気付かなかったらしい街のひとたちの間から、グレイスを思い切り引っ張って連れて行ってしまったのだった。