同行のひとたちはぽんぽんと玉を投げて両手で軽やかに操ったり、らっぱを吹いたりしている。今日はまだ宣伝なのだろうが、これだけでもグレイスの視線を奪うにはじゅうぶんなもので。グレイスはそれに見とれてしまっていた。そして、それはだいぶ無防備なことだったのだ。
 ぽん、と肩になにかが乗った。グレイスはびくっとする。
 それは大きな手だった。振り返ると何人かの男が立っていた。グレイスはひと目で悟った。
 これは、あまり、良くないひとたち。
 警戒心が一気に湧いたけれど、どうももう遅かったよう。グレイスの肩に手をかけた男が口を開いた。
「お前、さっきウチの店の林檎を盗っただろう」
 一瞬、なにを言われているのかわからなかった。『盗る』という単語がよくわからなかったのもある。けれど、こんな口調で責めるように言われて思い至った。
 なにか、盗んだと誤解されたのだ。ひやりと心臓が冷えた。
 そんなことは誤解に決まっている。思い当たることなんてなにもないのだから。
「そんなこと、してな……して、いない」
 つい普段通りの口調でしゃべってしまいそうになり、言いなおした。少年に聞こえただろうか、と思いつつ。
「いいや、確かに見たね」
 声をかけた男のうしろにいた男が続けた。グレイスは黙らされてしまう。