さて。首尾よく街へ向かうことができたグレイス。
 うきうきしていたけれど、すぐに感じたのは空腹感だった。当然だ、今日は朝食のほとんどを残してしまったのだから。まだ昼にもならないのにお腹は減っている。
 まずはなにか食べたほうがいいだろう。思って、違う意味で楽しみになった。
 街で食べるもの。屋敷で食べるものとはまったく違うものなのだ。
 それに堂々と街へ出られる外出日だって、食事をしに入る店は高級店のたぐい。屋敷のものより多少劣るとしても、それなりの質のものを食べるのだ。
 このお忍びではそんな気遣いは要らない。なにを食べようかと、街へ入ってグレイスはきょろきょろしてしまった。暮らしていないとはいえ、幼い頃から何度も来ているのだからなんとなくは地理もわかる。
 けれど前回来たときとは店の具合が少し変わっているように感じた。新しそうな店も増えている。街は豊かになっているのだろうか、と歩きながらグレイスは感じた。
 それは治世がうまくいっているということなので良いことなのだけど、今はまだ父の管轄。グレイスはそんな事情はわからなかった。
 見つけたのは一軒の派手な店だった。ハンバーガー、などと書いてある。パンズに肉や野菜を詰めて、手で食べるものだ。
 そう、手で食べるもの。グレイスは俄然興味が湧いた。手づかみでものを食べるなど、普段ないからである。
 この店で食べることに決めた。店の前の看板には簡単なメニューが書いてあったのだけど、グレイスの手持ちの金額で十分払えるような値段だと載っていたのも安心できた。
 よって店へ入ったのだけど、ちょっと戸惑った。がやがや賑やかな店内。広いホールにはたくさんテーブルと椅子が並んで、街の人々が食事をしていたり、おしゃべりをしたりしている。
 見ていると、どうやら皆、カウンターでなにか話をしているようだ。そしてハンバーガーや添え物の副菜らしきものが乗ったトレイを受け取って、テーブルに持っていっている。
 しばらく見ていてグレイスはなんとなく察した。カウンターで食べたいものを言うのだ。そして自分でテーブルへ持っていくのだ。こんなシステムの店は初めてなので感心してしまった。
 なんと効率が良いことか。勝手に食べ物が出てくるか、もしくはテーブルについて注文するような店しか知らないグレイスは感動すら覚えてしまった。
 やり方もなんとなくわかったので、グレイスはカウンターへ向かった。初めてなのでちょっとおどおどはしてしまったけれど。
「いらっしゃいませ! ご注文、お決まりですか?」
 カウンターにいたのは元気の良い若い女性だった。グレイスはどきどきしてしまいつつ、「こ、このお店は初めてで」と言った。普段の言葉づかいにならないように気をつけながら。少年らしく聞こえるように、ちょっと乱暴にしておかなければならない。